《MUMEI》

「ここか…」
永江と書かれた表札の前で立ち止まる。
少し時間が掛かってしまった。
とりあえずインターホンを押す。
『ピンポーン』
「はい、どちらさま?」
出てきたのは永江の母親らしき女性だった。
「梢さんのクラスメイトの中村と言います
プリントを届けに来ました」
「あら、まぁ
梢のお友達が遊びに来るなんて珍しいわ
とりあえず上がって上がって」
言われた通りに玄関に入ると、
「梢、お友達よ〜!」
女性は永江を呼びに行った。
しばらくすると、ドタバタと音がして永江が現れた。
さっきまで寝ていたのだろう。
髪には寝癖があり、服装もTシャツにジャージのハーフパンツというラフな格好だった。
「…おはよー、中野
まあ上がりなよ」
ちなみに今は午後一時である。
靴を脱ぎつつ、
「中村だ」
と、訂正するのを忘れない。
「…また、間違えた」
その後、永江の部屋に案内された。
…いや、永江家だからこの家自体も『永江の部屋』なのだけれど。
永江の部屋は物が少なかった。
「…あんまりジロジロ見ないでくれる?」
永江にジト目で言われた。
「すまない
…で学校のプリントだけど」
「…確かに受け取ったよ」
プリントを渡したら仕事は終了なのだが…、
「永江、携帯は持ってるか?」
友達らしいことの一つでもしてやろう。
「……持ってる
家族との連絡にしか使ってないけど」
寂しい奴め。
他人のことは言えないけど。
「連絡先を交換しないか?」
「…いいの?」
「もちろん
そうしないと、夏休みに連絡取れないだろ?」
「…連絡取ってどうするの?」
「遊ぶに決まってるじゃないか」
「…いいね
そうと決まれば中谷…」
「中村だって
いい加減覚えろよ」
「…中村って似た名字が多くて覚えにくい」
悪かったな。
「…じゃあ、名前なら覚えられるか?」
「えっと…
なんだっけ?」
「由」
「…ユウ?ユウ、ユウね
断然覚えやすい」
そんなことをしている間に赤外線通信完了。
「じゃあ、そろそろ帰るから
またな、永江」
「…ユウ、ちょっと待って」
「なんだよ」
「…私はユウのこと名前で呼んでるのに、私は名字で呼ばれるのって嫌なんだけど」
「…梢って呼べばいいのか?」
「うん」
「…わかったよ
じゃあな、梢
また今度」
「…うん、じゃあね」
少し嬉しそうな永江…じゃなかった、梢。

永江家を出た俺は帰路についた。

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