《MUMEI》

野球部の元、後輩の坂巻は妙にメガネ君に入れ込んでいる。ついには、俺についてきて駅までやってきた。

「本当だ、うわあ変わってない……!」

変わらないと喜んでいる意味もよくわからないが、メガネ君のホームまで行くことにも意味がわからない。


向かい合ってメール打ってる途中だが俺も追いかける、本来なら坂巻よりは足は早かった。しかし、急いてもこの微妙な距離が埋まらない。

「先輩っ……!」

抱き着いて来るかのようなテンションで駆け寄ってきた。ざまあみろ、メガネ君から俺はこんなに愛されている。

「立花、俺のこと覚えてる?」

坂巻に遮られた。

「うん、坂巻でしょ。」

この間、話題に出た時も自然に名前が出てきていた。まあ、俺が以前から話題に出したからな。

「会えてよかった、俺ずっとお前に謝りたくて……」

メガネ君が無防備だからか、坂巻は両手を握り締めていて馴れ馴れしい。

「そんな気負いしなくてよかったんだよ。部活辞めた今のが楽しくやってるくらいだからさ。」

ああ、そうだ。メガネ君のこの能天気さに救われた部分もある。

「そうか、また連絡していい?連絡先……、赤外線しよう。」

案の定、機械に弱いのでアドレス交換にメガネ君はもたついた。これ以上は坂巻がメガネ君に近付くのは辛抱堪らん。

「貸して。」

何故、俺がメガネ君と坂巻の連絡を交換しなきゃならんのか。

「先輩ありがとうございます。」

曇りの無い瞳だ、坂巻の前じゃなければもっとかいぐりしてやりたかった。

「うん。この画面、ね。」

赤外線を教えてあげる為に一つの画面を覗き込み、メガネ君の腕をさりげなく触れた。
俺がちょっとふざけて触るのさえ敏感に反応してしまうのが可愛くて、ついつい笑ってしまう。

誕生日の約束が楽しみだ。プレゼント選んで家に行って、いっぱい抱きしめて柔らかい頬っぺたも突いて、それからそれから……

「俺が機械音痴だからって先輩、今笑ったでしょう。」

勘違いして、メガネ君はむくれていた。

「違う違う、……二人きりで誕生日いっぱい遊べるなー……って。」

坂巻に聞かれないように、耳打ちすると、見る見るうちに頬を赤らめてゆく。

これから、暫く会えないなんて辛い、撮影がバカンスの定番である沖縄なのにメガネ君が居ないなんて地獄でしかない。

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