《MUMEI》

6月ということもあり撮影中の湿気はヘアメイク泣かせだ、天候には恵まれたのだが途中途中メイク直しが入る。
ここぞとばかりにメイク直し時間はメガネ君へメールを送った。たまに気に入った写メを送ったり、衣装の一部を撮ったりした。

雑誌の付録のハンディマップも意識しているせいか、建物も見せながらの撮影であった。

素敵ですね、カッコイイですね、綺麗な景色ですね……多種多様にメガネ君は褒めたたえてくれたがどれも本人に直で聞きたかった。
まだ二日目でこれだと思うと先が思いやられる。
寂しさを紛らわす為、自撮りしてくれたメガネ君を眺めては自分を励ました。
ガッチガチで固まっている学ランの姿だ。二回目の自撮りのメガネ君に坂巻が小さく写り込んでいて殺意が沸く。
駅のホーム内のトイレの鏡で俺に急かされて撮ったものだから、坂巻も付いて……いや、憑いてきてしまったのだろう。

夜には仲良くなったカメラアシスタントと飲みに行くことにした。普段なら学生だからと断ったが、ここは飲んで一時の苦痛を和らげる。

飲んでいる途中で、女性誌チームが合流してきた。静かに飲みたかったので頃合いを見て抜け出す。
ふと、着信が入っていてメガネ君だとわかると咄嗟にリダイアルしてしまった。
移動でバタバタとしていて気付けなかった自分をぶん殴りたい。

メガネ君から電話をくれるなんて嬉しい。

「電話くれた?今日は忙しくて出れなかったんだ。ごめんね。」

『こちらこそ……今は大丈夫なんですか?』

電話一本で舞い上がる俺も相当だ、メガネ君の声を聞けて安心する。相変わらず俺の心配ばかりだ。

「そっちこそ何かあった?」

『いえ……先輩元気かなーって。ごめんなさい、迷惑ですよね。』

「そんな訳ない、メールでもそれくらい聞いてくれていいのに。」

従順な下僕みたいな文面じゃなくて、俺のこともっと欲してくれたらいい。



「……キャハハハハ彼女ちゃん?もしもしー?あれっ、切れた!」

最低だ、酒に酔った女性誌モデルがメガネ君に余計なことを吹き込んだ。
急いで切れた電話にかけ直したが、メガネ君が出てくれることはなかった。
弁解メールを送ったが胡散臭さが拭えない。あらぬ疑いもかかるし、最低な仕事だ。
だからやりたくなかったのである。




――――次の日、坂巻からメガネ君と交際し始めたとメールが届いた。
見間違いだと思い、何度も電話もメールもメガネ君にしたが、繋がらなかった。
坂巻は信用ならないので絶対に連絡しない、土産もナシだ。

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