《MUMEI》

熱が篭って視界が霞み、頭に靄がかかったみたいになっている。Tシャツを脱いでいる脱落した一年が水道の周りにたむろして居た。
俺は意地になってシャツは脱がなかった、変わりに顔面からTシャツがべちゃべちゃになるくらい水を浴びた。
立花はその中でみみっちく蛇口の水を啜っていた。

曇った眼鏡を拭きながら何度もちびちびと水を啜る立花……暑さのせいなのかと思っていた時に周りのやつらがTシャツを脱ぐ意味を理解した。

分厚いレンズの中に覗く、立花のあどけない美少女のような顔に色気を感じてしまっていたのだ。
その後は一年生は坊主頭に刈られ、立花が眼鏡を取るようなことも無かったので、あの場に居合わせたやつらは気のせいだと言い聞かせて彼女を作る。

俺だけが女子への興味が失せていた。
正しくは居たのだが、色素の薄く唇の形が少し上向きで瞳の特徴的なベリーショートの彼女だった。

立花をどこか彷彿とさせている容姿だ。

神林先輩を追う、立花に目が離せなかった。神林先輩から貰ったガムをお守りとして大切に生徒手帳に保管するストーカー紛いの立花に執着する俺はおかしいのだろう。

先輩以外に興味のない立花から少しでも気を引きたくて、神林先輩が故障で退部してからは進んで立花を虐めた。
先輩が辞めてから、ロッカーの中に忘れられたタオルを見付けた立花が、タオルに顔を埋めていて俺の中でどす黒い感情が弾けた。それがきっかけで立花を退部まで追い込んでしまう。
でも立花にこれ以上部活は続けられなかったとは思う、先輩の野球する姿を見れないと意味がないからだ。

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