《MUMEI》

先輩を追って立花が同じ高校に行かなかったのは意外だった。
神林先輩と同じ高校に野球で特待で入った俺も大概性格が悪い、一方神林先輩は中学の先輩より大人っぽさ……というかフェロモンが全開で常に女には困らない遊び人のような位置で他のがり勉くん達とは一線を引かれていた。

話し掛けるのには苦労したが、慣れてくると先輩は奢ってくれたり勉強も効率の良い方法を教えてくれたり、非の打ち所も見付からず嫌みの無いイケメンだった。
そのせいか、俺は中学の部活動で立花のことも水に流して先輩に後輩として気に入られたかった。

神林先輩自体は野球以外のものへの興味は薄く、立花も平等にその野球以外の対象だった。

モデルの仕事も勉強も女の子も平等に付き合っていた、どこか冷めていて馬鹿やってた先輩ではない。
突然それが立花に会ってから変わっていた。

暫くは気付かなかったが、ぽろりと惚気を零したのを逃さない。

顔は俺の理想であるが立花のどこにその魅力を見出だしたのか、直接確かめたくなる。
頼み込んで立花に会わせて貰うことにした。

以前の制服がブレザーだっただけに、立花のビン底眼鏡と学ランの組み合わせの破壊力は凄い。

まだ先輩を想っていた立花にも驚かされた……ハートでも飛ばしているのかと思うくらい見てる方が恥ずかしくなる、許容内である先輩が可愛がることで起こる二人の空気にも照れた。
かつて彼女の居た先輩は野球メインの生活でストイックなイメージだったので、立花への甘い対応は衝撃だ。
猫をじゃらすより優しい声色で立花にべったりしている。

引いた反面、俺は腹が立っていた。
野球に夢中な神林先輩を追いかけている以上、立花は振り向かない、そして先輩は故障して進学高に行った。
俺はその先輩の学校でスポーツ特待で入学して優越感で燻る想いを消化したのに……。
立花は野球を辞めた先輩でも追いかけていたし、先輩はそんな立花に応えてしまった。
俺の自尊心は潰れ、立花と話してしまってからは埋めていた愛しさが再び芽を吹いていた。

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