《MUMEI》 変態と言う名の紳士ですが、何か?放課後ーー。 美少女に蹴られるという貴重な経験値を手に入れた拓真はようやく目を覚まし、辺りを見回す。 誰も居ない夕暮れ。 真面目な生徒達はもうすでに家に帰っていることだろう。 寂しい道を、一人とぼとぼと帰る。 「そういや、今朝の美少女、何もんだ? …ったく、やられたぜ!」 未だに顔面がヒリヒリと痛み、苦笑がもれる。 (……そうだ、ただの変態じゃ損ばかりではないかっ! ……なら、そうだなぁ……紳士な感じでいきゃあ……) 「そうだっ! 変態紳士になればいいんだっ!!」 大声でそう叫び、視界を上から戻すと、四歳児くらいの可愛らしい女の子が涙目でこちらをじっとうかがっている。 やべ、何かやべぇーー 「ぉ嬢さん、こんにちはキラン」 「ぅえーん、まぁまー」 目の前から幼女は逃げ去る。 「ハァ……帰ろう」 今日は、とりあえず寝たい気分だ……帰って寝よう…… 帰り道、商店街にさしかかる。ここを抜ければすぐのところに俺の家がある。 ようやくたどり着いた我が家の玄関……。今日は何となくスリスリして抱きつきたいほどに、愛着が湧いていた。……てゆうか、すでにしていた。 「うぅーやっと帰りついたょー」 半べそで扉に話しかけるザマは哀れ以外の何でもなかった。 油断してたんだ。 人通りの少ない時間帯。 そうそう通ることはないと。 だから後ろで今にも吐きそうな顔で見ている美少女に気がついたとき、見つめ合ったまま、フリーズしてしまった。 「…………」 「…………」 バッーー 美少女ーリズはさっと踵を返し、猛ダッシュする。 「ちょ!? 待っ!」 思わずその後ろを追いかける。 路地裏を曲がった辺りで、ようやく追いついた。そこは行き止まりだから。 「何で追いかけてくるのよ、変態ストーカーやろう」 グサッ、グサグサ 計7065のダメージを受けた。 「グハッ!?」 「……何してるの?」 ジト目で睨まれる。 「い、いやぁ、ハハ……。」 「キモッ! 何あんた? 一体何者なわけ?」 「フッ」 よくぞ聞いてくれた(泣) 「俺は柳瀬拓真! 自称《変態紳士》さ! 以後、よろしく」 「ハッ?」 「おい、人に名乗らせといて、自分は名乗んねぇのかよ」 「な、名乗るわよ。私は千久野リズ……よろしくはしたくない」 握手を求めた手がパチンと叩かれる。 「お前、こんな所で何やってんだ?」 ふと思った疑問を口に出すと、急に顔が曇る。 「あんたに関係ないでしょ」 「あんたじゃない、拓真だ」 「もぉ……拓真に関係ないでしょ」 関係ないなら、悲しそうな顔するなよ……。 「……そうだな! でも、あんま無理すんなよ」 予想外の言葉にリズは驚いたように顔をあげる。 「……聞かないの?」 「?だって言いたくないんだろ?」 そういって、リズに近づいていく。 「まぁ、あったばっかのやろうなんかに言いたかないよなぁ……。」 頭をクシャッと撫でる。 「言いたくなるまで、親密度をあげればいいだけ。心配だけど、それまで待つさ」 リズは頬を赤らめ、俯く。 もしかしたら泣いていたかもしれない。 優しい、父親のような笑顔でそれを見つめる。 (なんだ、ただの気の強い女の子じゃないか……。こんなに可愛い……。でも、なんだろう。何を隠しているんだ?) ツンデレがデレを見せている間、悶々と考えているが、思いつかない。 急にリズがバッと離れ、背中を向ける。 「帰る」 「え? あ、送るよ。遅くなってしまったし……」 「いい、近いから」 そう言って走り出す。 次は追いつくことはできなかった。 少女の走った残像に、光しずくを見た気がしたが、拓真も、もう一度帰路についた。 前へ |次へ |
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