《MUMEI》
席替え
 ガラッーー
 担任の37歳♂独身の立花昌樹が、明るい顔で入ってくる。
 機嫌が良いところを見ると、合コンでも上手くいったのか……。

 立花先生は開口一番席替えの連絡をした。

「この学級の時間は席替えをするぞ! その後の時間でテスト勉強、以上。じゃぁクジ回してー」

 クラスから歓喜の声があがる。
 中にはブーイングの声も上がっているが、少数だろう。
 
 みんなカリカリしていたのだ。
 受験生だからと勉強漬けの毎日……。
 何かイベントが欲しかったのだ。
 何でも良いから……。

 まぁ、俺もその一人なわけで、窓際の後ろという好ポジションを手放してでも、楽しみたいという欲がある。

 盛り上がるクラスに、自然と笑みがこぼれていた。

「よっしゃ、みんな回すゾー!」

 クジが回ってきて、適当に漁り、一枚手に取る。番号は28番ーー。

 黒板に貼られた席表で28番を探すと、窓側の一番後ろ……て、変んねぇ。

「移動」と立花先生が指示を出し、それぞれ反応を見せながら席を移動していく。そのままのへぇーと机にうつ伏せていた俺は、「よろしく」と声をかけられ、顔を上げる。

「んなっ……!?」

「あ、お前……えと、」

「千久野リズ! 一回で覚えなさいよ! 柳瀬拓真!」

「ぁあ! そーそー、リズだったな? 忘れてたわけではないぞ? ちょっとしたど忘れだ!」

「忘れてるんじゃない!」

「そーゆーお前は覚えてたんだな」

「な!?」

「ん?」

「べ、別に、あんたのことが気になって何回も名前呼んでた訳じゃないんだからね!?」

「呼んでたんだ……」

「呼んでないっ!」

 クラス中の視線が俺達へと集まっていることに気づかず、一人ヒートアップしているリズ……。

 多分、いつもはすましてあまり話さない高嶺の花の千久野リズが、取り乱しているところを見るのが珍しいのだろう。

「はいはい後ろの二人、その辺にしてそろそろテスト勉強をしてくれないかな?」

 口元は笑っているのだが、目が笑っていない。額に青筋をぴくぴくさせ、「リア充爆発しろ」と訴えている。

 素直に従い、数楽の問題集を取り出す。カリカリと解き始めるが、分からない問題に差し掛かる。

(んー、こうかな? いや、ここをこうして、)

「何それ?」

 急に横から声がかかる。

「何だよ、悪いか? わかんねぇんだから仕方ねぇだろ」

「ぷっだって、それじゃ幼稚園児の落書きじゃない」

「んな!? ちみぃ、何て失礼なことを……。この魂のこもった芸術を」

「これはこうなって、ここはこう……分かった?」

 リズは俺の問題集にカリカリと答えを導き出す。それが非常に分かりやすく、知能底辺の俺でも容易く理解できた。

「すげぇ! おまっ、マジすげぇ!! 天才だよ! 頭いんだな!」

「え? あ、当たり前でしょ! この私にかかればこんなの楽勝よ♪」

「マジすげぇよ! なぁ、もしよかったらさぁ、勉強教えてくんね? 頼む」

「まぁ、どうしても……ていうんだったら」

「お願いします!」

 スライディング土下座!
 ふぅ……決まったぜ!キラン

 俺の華麗な技に圧倒しているようだ。

「やめてよ、分かったから! 恥ずかしいなぁ……。柳瀬は平気でそんなことするバカだと分かってはいたが……」

 ん? 今さりげに酷いこと言わなかったかなぁ、リズさん?

 まあ約束は取り付けたので良しとしよう……。とりあえず、アドレスと携番をノートの切れ端に書いて渡す。何故か真っ赤な顔をして受け取られたが……まぁ気にしても埒があかない。

 底辺から上がるチャンス! 俺はヤ るぜぇ! ヤったるでぇ!

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