《MUMEI》

帰りも無理矢理会う約束をこぎつけてしまう。
立花は押しに弱く、俺の話ばかり聞く受け身姿勢だ。ファーストフードの店に落ち合い奢ったシェーキをちびちびと飲んでいる。

少しずつ飲むのは立花の癖なのだろう、口の形がキスをねだる仕種に似ていて、伏し目がちなのが欲情させた。

「じゃあ先輩に話しかけたのは立花からなんだ。」

あの引っ込み思案な立花がね……。

「うん……」

先輩の話になると目をキラキラさせるものだからわかりやすい。

「二人は付き合ってるの?」

「違うよ……!」

「じゃあ、俺と付き合わない?……なんちゃっ……」

「駄目駄目駄目だよ!俺は先輩が好きなんだから!」

冗談で流すつもりが光の速さで全力否定されてしまい、傷付く。

「片想いなのは自覚してたんだ。」

「やっぱり俺わかりやすいのかな、本人に見抜かれて教えられるくらいだもんね……俺ってとろくさいから自分の気持ちも気付くのが遅れて……。」

「は?どういうこと?」

「だから、先輩が俺の気付かなかった先輩への片想いを親切に教えてくれて……」

いや、真顔で言っているけどそれおかしいだろう。

「本当に好きじゃないじゃん。それって人形みたいに神林先輩に操られてるんじゃないの?玩具にされてるんだ。」

勝手に口が動いて、言葉の棘が立花を刺した。

「違う……俺は先輩が好きなんだから……言わないで……!」

恋は盲目というやつか。涙目で睫毛を震わせ縋り付く姿に生唾を飲み込んだ。
先輩ともうキスはしたのだろうか?

「傷付けなら悪かった……でも、それって自分が無いみたいだから、俺はそんな流されるとこも好きだけど。」

理性が効かない、堪えられずに話すのと同じ感覚でキスしてしまう。
唇の感触を確かめるより早く元に戻る。

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