《MUMEI》
ナンパと疑惑
 25日、晴天の朝ーー。
 目覚まし時計の音に一人の少年……つか、俺、柳瀬拓真が目を覚ます。

 AM9:00ー

「…………」

 カリカリ←頭を掻く音
 ゴシゴシ←目を擦る音

「うっっっわぁーーっ!? 寝坊したー!?」

 混乱する頭で着替えを済ませ、昨夜用意したバックを乱暴に掴み、玄関を後にする。

「いってきまーす!」

 家に大声が響き、ガチャンと乱暴に戸が閉められる。

「まったく……」

 呆れつつ、紀美子は小さく苦笑した。



「……んもう! 遅いな、たく。何してるのかしら? ……別に、心配してる訳じゃないんだからね、私」

 待ち合わせ場所の市民図書館入り口。
 人が行き交う中、待ち人を待つ彼女のようなリズは、一人、自分にツッコミ赤面する。

「よお、姉ちゃん一人? なら俺と遊ばねえ?」

 見るからにちゃらい感じのキモ男が、馴れ馴れしく話しかけてくる。

(はぁ…これで何回目かしら? こんな男だったら、柳瀬のほうがマシね、顔はいいし……)

 心で思ったことに、また赤面する。

「お? 姉ちゃん赤くなって…もしかして、俺に興味あったり……」

「なわけないでしょ、チャラ男! 人待ってるんで、構わないで下さい」

「ヒュー 気が強ぇ女、好物だぜぇ」

 にししと気持ち悪く笑う。

(思いの外、しつこそうね……。もぉ、こうゆう時に居てくれないと困るのに!)

「な? いいだろ? どうせ待ってる…てのも嘘なんだろ?」

(うざっ……)

 な? な? と繰り返す男に、怒りパラメーターが急上昇し、ブチッと何かが切れる音がしたような気がした。

「うるっさいな! 私はね、あんたみたいなキモ男にこれっっっぽっちも興味ないの!? 分かる?」

「あは、は…また、ツンツンしちゃってさ。ツンデレっつー奴? なんて」

「ツンデレじゃない! さっさとこの場から失せろ、ゴミ虫が!」

「ヒィィィー」

 と、追い詰めているところでアイツがきた。

「誠に申し訳ございまっせーん! 姫? ご機嫌うるわしゅう?」

 ダダダッと砂埃をあげ、柳瀬拓真はリズの前に現れた。

「遅い! 何時だと思ってるの? 私をここまで待たせて…」

「本当にその件に関してはどう説明すればいいか……」

「ぁあ! おまっ、もしかして!」

 謝罪の途中、チャラ男が声をあげる。カタカタと小刻みに震え、顔が青ざめていってる。

「?誰、これ? リズの知り合い?」

「なわけないでしょ! あんたがなかなか来ないから絡まれてたの、もう!」

「ん? ナンパというやつか? おまえすげぇ度胸あんなぁ、こいつにナンパするなんて」

「も、もう二度としませんっっ! まさか路地裏の孤竜の女とは知らず……」

「ん? 何、柳瀬って何かしてたの?」

「ん〜 どうだか?」

「本当に申し訳ありませんっ」

と言って逃げていくチャラ男を遠目に、市民図書館に足を踏み入れた。

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