《MUMEI》

先輩に突撃しようとすると、顔面へ花束がぶつかってきた。

「んぶっ……!」

口に花びらが入ってくる。大量の花束に埋もれ、眼鏡の隙間からも入ってきた。
かつてエースと呼ばれただけあって、先輩の打撃はハリセンのように綺麗にスパンと音が出ていた、花束はそのまま玄関に散乱する。

チカチカ目から花びらが瞬いて眩暈がした。
でも、先輩を抱きしめないといけない。手を伸ばして先輩の袖を掴む。


「……結婚を前提の交際しよう。」

応えてくれた倍の抱擁が俺を待っていた。
ドラマの台詞にしてもあまりに刺激が強く、握力で締め付けられ爪先立ちのままよろめく。
支えに片手が添えられ、もう片手は顎に、
そのままキス……

少女漫画より恋愛映画より、エッチな映像より遥かに俺の想像を上回る胸の高鳴りだ。

「せんぱ……電話の彼女は……?俺は肉体関係でも大丈夫ですけど……」

「仕事の人がベロベロに酔ってただけ、Riyoって既婚のギャルモデルの人だよ、心配なら飲みの写真見せるし。
肉体関係って婚約するつもりだったのに……何回も何回も可愛いってメールでも好きだって告白したのに、はぐらかすんだもん。やっと……俺の。」

逞しい胸板に埋もれようやく、実感が涌いてきた。


「んむっ……」

先輩の唇が何度もぶつかる、タイミングが合わないので俺が前歯をカチカチとぶつけて驚いた。

「開けて。」

食いしばるのを止めると先輩の舌先にが奥歯をなぞられる。

「は……はあ…………」

呼吸が乱れたまま治らない。


「坂巻のことを信用しないで、俺の言葉だけ信じればいいんだから。」

俺って優柔不断で先輩に迷惑かけて馬鹿だ、これからは心を入れ替えて先輩だけを信じよう。

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