《MUMEI》
いろんな顔
「なによ―――っ、なぐることないじゃないっサイテー!!」







「お前のしたことのほうがサイテーだ―――――!!!」





娑亜紗の頭のてっぺんに大きなたんこぶができた。





「だって気になって……」





「だってじゃねぇ!!」




来駕が怒鳴りながらテキトーに着物を着た。






「あ!! 帯はそうじゃないのよっ」






「え……、いーよテキトーでっ」





「だめよテキトーなんてっ」





娑亜紗はんしょんしょと来駕の着物を着付けした。






「しっかり着ないと、寝てる間に着くずれするわよ―――っ」






すると来駕が口を開いた。





「あんたって何にでもそーなんだな……」





娑亜紗が「え?」と答える。





「どーでもいーことでも全力っつーか、いろんな顔するし」





「よくわからないわ」





「あぁそう」



来駕がそっけなく答えた。





すると娑亜紗がきょとんとした顔で




「あなただっていろんな顔するじゃない」





と言った。





来駕が思わぬ言葉に目を大きくした。





「最初はお面みたいだったけど……」






そして来駕はまた、違う意味で目を大きくした。





「!?」




振りかえって娑亜紗を見ると娑亜紗が横にゆーらゆーらとゆれていた。






「なんだ!?何が起きた!?」





「だめなの……私、9時に……ねな、きゃ…」





娑亜紗はさっきより一層大きくぐーらぐーらと横にゆれて





時計のボーンボーンボーンという音とともに





ガクッと倒れて寝てしまった。







「信じらんねー、警戒心なさすぎだろ……」






「……、いろんな顔してるって、お前のせいだっつーの……」







来駕は娑亜紗を抱きかかえてぼそりと呟いた。

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