《MUMEI》
来訪者
 翌日、タイキがまだ夢と現実の間をさ迷っている頃、けたたましく部屋にベルが鳴り響いた。
「な、何だ!?」
驚き、跳び起きたタイキは弾みでベッドから転び落ちてしまった。
「……いってぇ」
頭をさすりながら、タイキは体を起こす。

 痛みで目覚めた頭が、ようやく鳴っているのはインターホンであると理解した。
「何時だよ、今?」
ベッドの頭に置かれてあるデジタル時計は五時を表示している。
もちろん、朝の五時。
「はあ?五時って」
こうしてタイキが時刻を気にしている間にも、インターホンは鳴り続けている。

「あー、うるさい!誰だよ?」
 タイキは勢いよくインターホンの受話器を取った。
しかし、インターホンに組み込まれているカメラには、なぜか誰も映っていない。
「いるんじゃん。早く出てよ」
誰もいないはずのインターホン越しに、かすれたハスキーな声が聞こえてくる。

「居留守、使おうとしてたんでしょ?男のくせにやること女々しいよ」
この相手を挑発するような口調は間違いなくミユウだ。
「は?ミユウか?なんでここ。つか、カメラに映ってないんだけど」
「カメラ?ちゃんと映ってるでしょ?」
「え、いや。誰もいないけど」
タイキが戸惑いがちにそう言うと、突然画面が切り替わった。
現れたのは、朝から化粧バッチリのミユウの姿。
「あ、あれ?」
「これ、映してたりして」
そう言いながらミユウがヒラヒラとカメラの前で振ってみせたのは、カメラから見えるのと全く同じ景色を写した写真だった。
「こんなのに引っ掛かるなんて、あんたかなりヤバイよ」
「……で、何の用?」
ムッとしながらタイキはぶっきらぼうに言った。
「あ、怒ってるし。心狭いなぁ」
ミユウは肩を竦めている。
「いいから、何の用だよ?こんな朝っぱらから、非常識だろ」
タイキが厳しい口調でそう言うと、ミユウは急に俯いて黙り込んでしまった。

「……おい?」
少し強く言い過ぎたかと思わず声をかけると、ミユウは小さな声で言った。
「お腹が減ったの」
「……は?」
「だから、お腹が減ったって言ってんじゃん」
「…え、いや、だから?」
「なんか食べさせて」
ミユウは真剣な表情でカメラ越しにタイキを睨みつけている。
「なんで?どっかで食べれば……」
「お金、ない」
「……マジ?」
「大マジ」
タイキはコクリと頷くミユウを見ながら深くため息をついた。
「早く入れてよ」
「…わかったよ」
仕方なくタイキは入口のロックを解除した。

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