《MUMEI》
プロローグ
 流れる川の向こうから、何か黒い影が見える。一人の老婆は流れてきたそれを目を丸くしてひろいあげる。「何て酷いことをするんだ」「可哀想に……」その手に何かを抱いて小さな小屋のような中に入る。一人暮らしの頑固な白髪頭の老婆。
それが全ての始まり…。
悲劇か…。
喜劇か…。

今まで何一つ動かなかった赤子が突然その髪と同色の紅の瞳をパチッと開ける。
その粒のように小さな唇を微かに開く。
瞬間、時計の針が逆に回り出し、歯車が歪な音をたてるように。記憶の全てが共鳴し、嗤い、頭を食い破るようにーー。
悲鳴とも、嗤いともとれない何か音か声か……。その日、老婆は頭をパンクさせ、血が弾け飛ぶように付着した。赤子は泣いた。嗤っていたのかもしれない。
自分の全てを呪って。

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