《MUMEI》

シャワーを借りて、ついでに歯ブラシも借りた。
ヒメのスウェットだろうけれど丈が足りない。
Tシャツも腹がなんとか隠れる長さだ。

洗面所ですれ違うメガネ君は抜け殻だった。
二人で林檎を食べて、中学のアルバムを眺めたり……終始、空返事でポンコツである。
部屋では暇だからお母様と居間で談笑した、おばけが嫌いで怖い話を見終わった後は一人でトイレに行けないとか、お風呂に中学一年生まで誰かと入っていたとか……一人で眠れるようになったのは一年前だとか。

ヒメだけがメガネ君に依存している訳ではなかったみたいだ。
部屋に戻り、ベッドでだらだらしていると家の鍵が隙間に落ちたので手を突っ込む。
枕が顔に当たり、固形物の角が頬に刺さる。
鍵を取ろうとベッドをずらすと、お菓子の箱も一緒に出てきた。勿論、中を確認する為に蓋は開ける。


箱にはぎっしりと写真が詰まっていた。
全て俺の写真だ。

かなり年期の入ったものから、つい最近の写メをプリントアウトしただろうものまで揃えてある。
こんなに俺を好きだなんて、嬉しい……。

「先輩、枕が無いのでバスタオ……」

メガネ君はコレクションが見られたことがショックだったのか、全身で写真の箱を覆って隠す。

「俺と写っているのはないの?」

「……あっありません!」

背骨が湾曲していて、猫の丸まった背中を思って撫でてしまう。

「じゃあ一緒に写真いっぱい撮ろう。来週の誕生日にプリクラでも撮る?」

「だ、駄目です。恥ずかしい……他のお願いなら聞きますからどうかそれだけは!」

「やった。じゃあいろいろ準備するよ。どんなお願い聞いてもらうかな……ねえ、こっち向いて?」

恥ずかしがって、目を閉じたままで向いてきた。
接吻を求めてくる仕種に似てるせいで、手で瞼を伏せ、唇を重ねてしまった。

「せんぱ……あ……、ン」

「旭、だよ。雪彦。」

俺の名前とキスにメガネ君が痙攣した。


「あ……あっ……あ、あ」

名前を呼ぼうと喘いでる姿にが愛しさが溢れ、同時に欲情する。

頬の柔らかい触感を確かめた、キスする時に眼鏡は邪魔だ。
もっと、体温が欲しい。

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