《MUMEI》

ゲームセンターに到着した頃には昼を過ぎていた。
「梢、ついたぞ」
不機嫌そうな表情で降りる梢。
「すっごくお尻痛いんだけど…」
俺はお前に締め上げられた腹が痛い。
「さて…、何をしようか」

十数分後、俺たちはゲームセンターの近くにある喫茶店にいた。
ゲームセンターが点検のために閉鎖していたからだ。
対面では梢が不機嫌そうな顔でジュースのストローをくわえている。
「こうして、私の夏休み一日目は無意味に終わった…」
いや、まだ終わってないし!?
「ほら、せっかく町の方に出てきたんだから買い物とか」
「興味ない」
俺の言葉に被せるようにして言う梢。
怒っていらっしゃる…。
「…ケーキ」
梢が不機嫌な表情を崩さぬまま言った。
「このケーキで手を打つ」
ここの店のケーキは学生には少し辛い価格である。
まぁ、それで友人の笑顔が買えれば安いか。
「わかった、そうしよう」
店員を呼び、彼女が指しているケーキを一つ注文する。
「ユウは食べないの?」
「二人分はさすがに財布が辛い」
「ふーん…」

数分後、出されたチーズケーキを食べる梢。
幸せそうに食べている。
…コイツ、笑ってたらこんなに可愛いのになぁ。
そんなことを考えながら眺めていると、突然梢が俺の目の前にフォークに刺したチーズケーキを差し出してきた。
「…食べれば?」
…どうやらな彼女なり気遣いのようだ。
「ありがとう」
フォークを貰おうとしたが、梢は口元にケーキを差し出したままである。
…もしかして、よくあるアレか?
そのまま口を開けるとチーズの風味が…
「…って喉詰まるわ」
加減を間違えたようだ。
「ごめんなさい…」
少し落ち込む梢。
最近は結構表情に出るなぁ…。

食べ終えて少し話した後、梢を家に送ることにした。
少し早い時間だが、遅くなるよりいいだろう。
「なあ、梢」
「…なに?」
俺は自転車の上で梢に話し掛ける。
「明日も暇か?」
「うん」
「じゃあ、明日また誘っていいか?」
梢は少し迷うように間を置いた後、
「…好きにすれば?」
とのことだった。
…これはまだ信頼されていないということなのだろうか?
永江家で梢を降ろしてから家へ向かう。
もっとも、今日は俺と翼だけだから夕食のために急ぐ必要も無いのだが…。
今日は梢の色々な面が見れたから良かったな…。
などと昼のことを思い返すうちに家についた。

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