《MUMEI》
狙われているのは
 絶え間無く続く銃声と叫び声。
時々、ドサっと何かが地面に落ちる音が聞こえてくる。
 ユウゴは燃える市役所から放たれる熱気と車の下という狭さが手伝って、今にも吐いてしまいそうだった。
その気持ち悪さを堪えながら、警備隊が去るのをひたすら待った。

だんだんと荒くなる息を感じたのか、ユキナが心配そうな視線を送ってきた。
ユウゴは大丈夫だと頷いてみせる。

「あいつはどこだ?殺ったのか?」
突然、ユウゴの目の前に二人分のブーツが現れた。
「いや、今、死んでる奴の顔を確認してるが、見当たらない」
すると、一人が舌打ちする。
「逃げたのか?しぶとい野郎だ。……まだ、近くにいるはずだな」
「ああ、一応、周りは囲ってあるから。けど、あいつら妙な抜け道知ってるからな」
「ああ。しかし、今回のプロジェクトはやっかいだな」
「まったくだ。いつもは適当に向かって来る奴らを撃ってりゃ良かったのによ。反乱集団はいるわ、電波使って挑発してくる奴らはいるわ」
二人はため息をついた。
「ったく、あの野郎、委員長を怒らせやがって。いい迷惑だ。さっさと殺して、首持っていこうぜ」
「ああ」
遠くから怒鳴り声が聞こえてきた。
どうやらこの二人を呼んでいるらしい。
『はい!今行きます!』
二人は同時に声を張り上げると、走って行った。

 電波を使って挑発した奴らとは、間違いなくユウゴたちのことだろう。
彼らはユウゴたちを殺しにきたのか。
いや、あの二人の口ぶりからは狙われているのは一人だけ。
それはおそらく、一番最初にカメラに向かって挑発行為をしたユウゴ。

 覚悟はしていたが、やはり気持ちは焦る。

早く、このままどこかへ行ってくれ。

それだけを頭の中で何度も唱えていると、ユキナが肘で何かを伝えてきた。
彼女はしきりに車の後部を気にしているようだ。
ユウゴはなんとか首だけを回してユキナが見ている方向を見た。

 ポタ、ポタ、と何か液体が車体から零れ出ている。
そこから漂ってくる鼻をつく匂い。
ガソリンだった。

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