《MUMEI》

「貴方を見てから、自分がおかしいことに気が付いた。

でも、貴方は普通の人間だ。迷惑はかけたくない。」


「俺は神だよ、唯一の資格を持っている。」


「じゃあなんでそんな傷を付ける。神はそんなことをしない」
樹はゴム手袋と手首の傷口の境目に触れる。


「やめろ、嫌なんだ。
体が拒絶している。」
アラタの手首が樹を振り切った。


「どうすれば貴方をここから出せる」
ゴム手袋からでも分かるアラタの纖かな指先に跪づく。
樹は生唾を飲み込んだ。


アラタの右手が樹の顔面を鷲掴んだ。


「これがお前の汚い口」
口元に指がなぞられる。
心地良さに目を閉じて、身を委ねた。
五感がアラタを受け入れている。柔らかさで口が溶けてゆきそうだった。




「逃げたい訳じゃ無い。逃げないだけだ。
……俺は白縫だから。」
アラタの芯の強さが言葉に表れている。


「しらぬい?」


今まで聞いた単語の中で1番綺麗だった。

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