《MUMEI》
「出逢い」…思いがけないめぐりあい
春先にしては風が冷たくて、でも秋とはちがった空気が体を巡る。
もうすぐ新年度を迎えるこの高校に俺が向かう理由は入学式の準備だ。
そして新たに配られるクラス分けの表が机に置いてあるはず。
非常に楽しみだ。


なんと言っても今一番大事なのは仕事。
趣味も恋愛もいらない。
俺がするのは生徒をより良い未来、進路へ導くこと。
風当たりも強い職業だが、必ずやこなしてみせる。


校門をくぐると、髪の長い生徒とすれ違った。
目があったような気がしたのは光の加減なのだろうか。


「高橋ー校章、個数確認してー」

「うんー」


準備係の生徒なのだろう。
彼女は影を残すような歩き方をする。
不思議な空気に触れたようだった。
幻想的な雰囲気を放つ子だ、と一瞬吸い込まれそうになったが、意識をしない内に仕事に戻った。

「大谷先生、おはようございます」

おはようございます、と返す。
職員室にはいると挨拶が飛び交っている。
自分の机に着くと置いてある時間割表。
自分の学年の政経、高1の特別進学クラスの日本史、中3C組の公民が四角い枠に記入されていた。
中高一貫の私立ゆえに高校教師も中学に派遣される。
最近の中学生は迫力があるから、あまり関わりたくないのだが…


窓の外にふと目をやった。
桜はまだ咲かないだろう。
俺もまだ、仕事に集中したいから…


職員室の扉をガラリと開き、さっきの生徒が入ってきた。
名前はもう忘れたが、彼女は何年生の何組なのだろうか。
きっと入学式の準備をしているということは中学三年生だろう。
ガラガラガラと氷の落ちる音がした。


俺はお茶を飲むために、カップをもって席を立った。

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