《MUMEI》 「上の空」…他のことに気を取られてそのことそれからしばらく平凡な日々が続き桜はすっかり散ってしまった。じめじめと湿気の多い日が続く今、今年度最初のイベント「中間テスト」が始まる。 とても忙しい。本当に嫌いだ。 数学や理科の先生は試験前になると生徒の質問責めに遭っている。俺はというと、社会科なんて質問しに来る生徒など少なく、十分試験づくりに専念できた。 一度、中3の生徒が授業で配布したプリントをもう一枚欲しいと言ってきた。ちょっと待って、と言い印刷室で五枚程刷り一枚渡した。他の生徒が欲しがったときのために多めに用意したが、それ以来中3の生徒は来なかった。 中間テスト中はいいのだ。試験監督という役割をぶら下げて、ぼーっと椅子に座っていればよいのだから。 大変なのはその後、採点だ。 一日目に戻ってきたテストは高校の日本史だった。平均点を低く作ったわけではないのに、全体的に芳しくなかった。何によって導き出された結果か考える必要がある。 パソコンを開いて点数を打ち込む。その右手に振動を感じてそちらを見ると、この間言ってたやつ、と言いながら一枚の解答用紙を指差した。 国語 92点 「平均点は68点なのに」 「高橋かぁ…俺今年初めてだから楽しみだわ」 そういって笑うとすみやかに作業に戻る。首を回すとバキバキと音が鳴った。 次の日は高校の政経が戻ってきた。こちらは受験生の自覚があるのか、平均点はなかなか良かった。俺が持っているクラスがほかのクラスに7点も差をつけたのが何より嬉しかった。 席の後ろで数学科の先生が三人で話していた。どうやらダントツで満点を取った生徒がいたらしい。満点の次が84点だと言うのだから相当才能があるのか、努力したのだろう。 話のニュアンスからして満点が、以前プリントをもらいに来た生徒で、次いだ二位は高橋だ。 確かに満点の生徒は授業に積極的で知識もあるように見える。それに比べて高橋は常に下を向いているし、席順に当てていってもぼーっとしていて質問を聞いていない。一体どこで勉強しているんだ。 夕方、仲のいい教師で集まっているとき、そうぼやくと 高橋は英語は常に10〜20点代をさまよっている、と教えてくれた。 その分生物は一位を譲らないという。 要するに極端なのだ。 だから社会科も苦手だから授業上の空なんじゃないのか、と言われた。 少し寂しかったが、そういう生徒も稀にいるので気にしないことにした。 他の生徒の話題で盛り上がった後、彼らはあっけなく解散した。 次の日返ってきた中3の公民のテストは プリントの生徒が81点、 高橋は47点だった。 前へ |次へ |
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