《MUMEI》
「無理」…筋道が立たず道理にあわないこと
少しずつ汗がにじんでくる季節になってきた。ギンギンと太陽は輝いている。冬にあれだけ憎かった風でさえ、今は天の恵みのようだ。
これから先まだ暑くなると思うと、節電なんて言っていられないことを実感した。



仕事の方はというと、答案返却は無事終了し次は期末に向けて授業を進めている。前回芳しく無かった学年の授業には、資料や説明を増やし出来るだけ理解できるようにプリントを作り直した。


と、いう俺の努力はよそに、生徒たちの学習意欲は変わらない。つい最近生徒の意欲を高めることは無理に等しいと悟った。彼女達も好きでこの授業を受けている訳ではないのだから。

最低限として、寝ている生徒は起こすようにしている。たまに自分が何をやっているのか分からなくなって教材なんてばらまいてやろうかと思う。

ていうか高橋、しゃべりすぎなんだよ。うるさい。




校舎をつなぐ渡り廊下で、高3の生徒が走ってきて紙を渡してきた。

「絶対来てくださいね」

と吐き捨て、通り過ぎていった。
俺が担任をしているクラスの生徒ではなく、授業を持ったこともなかった。


『放課後、質問したいんで進路室に来てください。お願いします。』

紙にはそう書いてあった。
質問?あの生徒の目つきだと拷問の勢いだぞ。
俺はなにをされてしまうんだろう。





……と、 言う事をすっかり忘れた放課後。
部活の生徒に放課後の予定を聞かれて思い出し、慌てて進路室へ向かった。


ごめんね遅くなって、と言いながら入っていくと
先ほどのキツそうな生徒と、もう一人俺の知っている生徒がいた。その生徒は二年前日本史を教えていたクラスの子だ。正直あまり印象にあるタイプではなかった。
「ん?荒井か。どうしたの」
途端に荒井は慌てふためき、物陰に隠れてしまった。そこで知らない生徒が近付いていき、今言わないでどうするの、ちゃんと気持ち伝えないと。と諭している。

その光景を見ながら、相手がすべて言い終えた後何と返すか考えていた。
「生徒とは無理」…違うな。「そういうのはやめなさい」?


斜め下を見ながら思考を整理していると荒井が近付いてきた。
もう一人に無理矢理背中を押されている。

荒井が話し始めた。最初は 俺の授業が分かりやすい事や、始めてみたときの印象をまとまりなく伝えてきた。

「先生の事が好きなんですけど、もうすぐ卒業なんで…あの卒業したら…って……あの……」

人はこんなに顔が赤くなるのかと思うほど、荒井の顔は赤かった。
俺も慣れているわけでもないのでそれなりに赤かったと思う。

「うん…分かった」
そう言った後に ありがとう、ごめんね。 と付け足した。
知らない方の生徒にとんでもなく睨まれた。やめてくれよ…。俺が生徒に気を持つわけないだろ。荒井が泣き出したのを見て、落ち着いたら帰りなさいと告げて部屋を出た。

荒井の気持ちには全く気付かなかった。まぁ気付かなくて当然だろう。



教師と生徒の恋なんて
あってはならないものなのだから。

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