《MUMEI》
「自覚」…自分の価値能力位置状況を把握する
中3の授業が終わり、帰ろうと教壇を下りた瞬間
「先生ってスーツ似合いますねー」
と言われた。露骨に『は?』という顔をしすぎたのかもしれない。その声の主、高橋の目が泳いだ。しかしそんな素振りを見せたのもつかの間、瞬時に気を取り直したらしく、椅子の上で胡座をかきながら
「先生はかっこいいから、何でも似合いますよね」
と、恥ずかしげもなく言った。

へっと言うような少し小馬鹿にした態度だったので、ありがたいことに俺も照れたりせずに済んだ。
「はい、ありがとうね」と軽くあしらって教室を出た。


荒井のことがあって、少し敏感になってしまったようだ。まぁ高橋が荒井のようになるとは到底思えないが。


俺は普通の恋愛がしたいんだ。職場で無理矢理相手を見つけようとしたら、九割以上の候補が生徒になる。どんなに素敵な恋だったとしても、俺が教師で相手が生徒である以上、気持ちを抑えなくてはならない。


まず俺が生徒に気を持つ事自体有り得たことではないから、そんな事心配する必要もないのだが。


悶々と思考を巡らせたまま職員室へ戻ると副校長に声をかけられた。その時は立ち話で済んだのだが、荒井とは距離を置くようにとの事だった。
それから更に気を引き締めた。


俺は教師だ。


絶対に生徒全員平等に接すること。
人間としての感情を押し殺し、
差別も贔屓もしない。

教師である自分しか、学校では見せないようにしよう、と。

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