《MUMEI》

今ほどは縋らせてもらおうと、扇は華鶴の身体を手放す事が出来なかった……

 「千羽。生きてるか?」
翌日、結局一睡もする事無く折鶴を見舞っていた扇の元へ
多々良が尋ねてきた
随分と早い訪問に、何かあったのかと返せば
多々良は足音も少なに部屋へと上がり込み、扇の隣へと腰を降ろす
「よく寝てんな。二人とも」
眠る折鶴の傍ら
添い寝をしたまま共に寝入ってしまったらしい華鶴の姿を見、
微笑ましいと多々良は表情を綻ばせる
「……寝てる時は静かなんだがな」
派手に溜息を吐く扇
結局、この静けさは折鶴が起きるまでの一時的なもので
根本的な何かをどうにかしない限り、扇に平穏が戻ってくることはない
「……おい政隆。お前、少し禿げろ」
「はぁ!?何だそれ、意味解んねぇ!!」
「こっちも解らんから八当たってる。黙って八当たられてろ」
兎に角、誰かに全て吐き出してしまいたかった
そんな時丁度そこに来た多々良は絶好の的で
互いに言い合いが始まってしまう
「千、羽様……?」
その声で当然に華鶴が目を覚ましてしまい
だがまだ寝の最中に入る様子の彼女へ、もう少し寝る様言って聞かすと
扇は静かに部屋を後に
何処へ行くのかとの多々良へ
扇は向いて直る事もせず散歩に行くのだと適当に返し外へ
その後を、何故か多々良も付いてきていた
「……何で付いてくんだよ?」
「別に、何となく。お前って、何か良からぬ事しそうだし」
「……何だ、そりゃ」
「で?本当の処、何所行くつもりだ?」
観念して離せ、とせっつかれ
だが行く当て等決めてなどいなかった扇は返答に詰まる
兎に角、大人しくしているのは性に合わないと
その旨伝えてやれば多々良はどうしてか大袈裟に溜息をついて見せる
「……お前って、本当無計画だよな。少し位考えて動け」
「テメェにだけは言われたくねぇよ」
皮肉を込めて返してやり、扇は素早く身を翻すと
そのまま外へと出向いたのだった……

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