《MUMEI》

どうしてか、一人きりで酒を煽る気にはなれなかったらしい
「……わしも歳を食うたという事か」
一人手酌で飲む事が寂しいと感じてしまう程に
傍らにこの温もりがある事が常になってしまっていたらしい
「……ヒトというのは、温い生き物だな」
微かに肩を揺らしてしまえば
その揺れに乾が目を覚ましていた
「……つまみ、作る」
酒の臭いを感じたのか、目覚めての第一声
未だ寝に半分入ったまま、台所へと向かおうとする乾を五月雨は止め
やんわりとその腕を引くと膝の上へと座らせていた
「……五月雨?」
「つまみは要らん。此処に居ろ」
珍しく、誰かの存在を求める様な五月雨に
乾は何を返す事もせず小さく頷いて、そのまま五月雨の膝の上へ
「……どうかしたのか?」
らしくない、と指摘をしてやれば
五月雨は酒を煽りながら何でもないを返すばかりだ
それ以上、何を語る様子のない五月雨
その横顔を眺めながら乾はまたうつらうつらと船を漕ぎ始め
そしてまたすぐにまた五月雨の肩を借り音に入ったのだった……

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫