《MUMEI》 4「……お前は相変わらず寝起きが悪いのう」 翌日、朝食時 普段通り、目覚める事も程々に乾は朝食を摂っていた まるで昨日の騒動が嘘の様に夜が普通に明け あの事は夢だったのでは、と思えてしまうほどだった 「……学校、行ってくる」 結局、さして味など解らないままに食事は終わり ソコに来て漸く眼を覚まし登校するため家を出る 「待て、悟」 境内の石階段を降りていると、後ろからヒタヒタと五月雨が着いてくる 立ち止まり、何事かと向いて直れば 「今日は気分がいいからな。学校まで見送ってやる」 見送ってやると言いながらも 五月雨は乾の脚をよじ登り方の上へ 随分な重みが肩に掛り、肩こりになりそうだと思いながらも 途中、十字路へと差し掛かると、乾はその脚を不意に止め 周りを見回し、そして徐に北側を剥いていた 「……悟。大丈夫だ、あいつらは無事、あちらへ還った」 心配する必要はない、と 寝子の柔らかな手で五月雨が乾の頭を撫でてくる まるで子供扱いされている様で そういう感覚に余り慣れていない乾はどう返していいのかが分からない 「……じゃ、もう学校近いから」 此処でいい、と五月雨を近くの塀の上へ 乗せてやり、乾はそのまま校内へと入っていく その背を見送り、五月雨も帰路へ 一人境内の石階段に身を丸め、惰眠を貪る そうしている内に陽もすっかり暮れ夕刻 ゆるり五月雨の姿が巨大なソレへと変わっていく 事が一段落ついてしまえば、このでかい図体は邪魔なものだと 人目につかない様、五月雨は本殿の後ろへと身をひそめる事に 「……何、やってんだ?」 どれ位そうしていたのか 学校から帰宅してきたらしい乾が五月雨の気配を察したのか其処へと顔を覗かせる 理由を伝えてやれば だが乾は何を返す事もせず、麦お音で五月雨の傍らへと腰を降ろしていた 「何をしている?」 唯、何をするでもなく其処に在るだけ どうかしたのか、改めて問うてやれば 「……夕暮れ、何となく寂しいな」 段々とくれて行く空の橙を眺めながらの呟き 憂うかの様な乾の横顔に 五月雨は僅かに笑う様な仕草を見せてやりながら 「もう大丈夫だ。何もかもに、片が付いた」 安心させてやる様、落着いた低音が何度もその事を呟く 大丈夫だから 耳に優し過ぎるその声色に、乾は漸く胸を撫で下す事が出来ていた 橙に暮れて空を眺め見ながら 五月雨の柔らかな毛に包まれたまま、乾はその景色に見入ったのだった…… 前へ |
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