《MUMEI》

…ここは何なのだろう?
オシャレをした女の子達が歩いている。
私の格好が浮いているように感じる。
いや、実際に浮いているのだが…。
私は今、ユウに連れられて駅前のショッピングモールに来ていた。
「あの、ユウ…
…どこに向かってるの?」
不安になって訊いてみた。
「この先に安くいい服を売ってる店があってな
妹や幼馴染みの付き添いで何回か行ってるんだけど…」
と言いながら歩いている。
数分後、一軒の店の前で立ち止まった。
「…なんかボロいんだけど」
私は見たままの感想を言った。
実際、辺りの店と比べて色褪せている。
客もあんまりいない。
「そんなこと言うなよ
ちゃんとした店なんだから」
「…なら、いいけど」
首を捻りながら私は店に入った。

薄暗い店内に様々な服が置いてある。
「少し流行りからはずれてるけど、大抵のものが半額以下で売ってるんだ」
「ふーん…」
私は店内を見回した。
ふと、そのなかにある黒いスカートが目に止まった。
「これとかどうかな?」
ユウに見せてみる。
「うーん…
試着してみれば?」
「…試着室なんてあるの?」
あるとは思えないんだけど…。
「…そういえば、なかった」
やっぱりか。
「でも似合うと思うよ」
「…そうかな?」
ちょっとうれしい。
「…じゃあ買おうかな」
レジへ行くと、店員が無言で手続きをしてくれる。
新しい服を持って私達は店を出た。

私達は一昨日の喫茶店にやって来た。
飲み物を注文した後、少し話ながら待っていると、突然ユウの携帯電話が鳴り出した。
「すまない、幼馴染みからだ」
と、一言断ってからユウは電話を取った。
「もしもし?
…あぁ、その通りだ
今は友達と遊びに来てる
…うん、
……え?
変われって?」
ユウがこちらを向いて
「梢と話してみたいって言ってるんだけど…」
「…なぜ?」
「俺の友達がどんなヤツか知りたいんだってさ」
本当は出たくないが…そう言われると断れない。
「…わかった、変わるよ
……もしもし?」
『もしもし?
あなたが由の友達の、
えっと…ナガエコズエさん?』
「確かにそうだけど…
なんで名前を知ってるの」
『由の周りの情報で知らないことを無くしたくてね…
不確定要素で僕の由を盗られたくないんだ』
「…あなたの、ユウ?」
『そうだよ
…キミがどう足掻いても由宇にはこれ以上近付けないよ
だってそこには…キミの居場所なんて無いんだからね』
え…無い?
私の…居場所が…無い?
無い。
無い、無い。
無い無い無い。
無い無い無い無い無い。
「嫌だ!そんな、私は…安心したいだけ
なのになんで、なんで?
なんで、何故、どうして!?
嫌だ、嫌だ
…こんなの嫌だ!!」
頭が重い、目眩がする。
見えるはずの無い人影が見える気がする。
頭を抱えて震える私を不思議そうに見ている現実の人間と幻影の少女。
「…ぇ、梢!しっかりしろ!」
周囲の音が遠退く中、何故かユウの声だけが鮮明に聴こえる。
ふと、急に気分が楽になった。
視界が動いている…どうやらユウに抱えられているらしい。
何故だろう?
こうしていると、安心する…。
私の意識はそこで途切れた。

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