《MUMEI》

「それに、あれだ。レイプはいかんぞ、レイプは」
無法者達は嘲笑を漏らした。
「ただの人間が余裕ブッコいて、何か言ってるみたいだぜ」
「僕ちゃん耳が遠いから聞こえませーん」
スキンヘッドも「ふん」と鼻で笑って、
再び押さえつけた女の料理にとりかかる。
女を見下ろしたスキンヘッドはふと、妙な違和感を覚え、表情を曇らせた。
先程まで怯えていたよう に見えた女の顔に浮かぶ、不可思議な笑みを認めて。
一方男は砂の上をとぼとぼと歩き、放り捨てられたマントを拾うと、
「やれやれ、こんなに汚れちまって」
ぼやきながらそれをはたいた。
男は擦りきれたジーパンに、上半身には鎖かたびら、黒い胸甲と肩甲を身に付けている。
近くで見ると、露出したたくましい腕や体には無数の古い傷跡が走り、男が幾多の戦場を潜り抜けて来た事を物語っていた。
モヒカンが目を細める。
その横からドレットヘアが歩み出ると、
「隙だらけだぜ、大将!!」
突きだした右手の延長線上を黒い革むちが真っ直ぐ走り、男の背負った大剣の柄に蛇のように絡みつく。
次の瞬間鞘から抜かれた剣はくるくると宙空を回転すると、男と無法者達の間の砂地の上−どちらかと言えば、無法者寄り−にぐさりと突き刺さった。
「オオーっと、あっという間に丸腰!これは大ピンチだー!」
ドレットヘアがわざとらしく男を揶揄
(やゆ)する。
しかし男は相変わらず場違いなまでに落ち着きはらっている。
「おいお前ら、いい加減にしろよ。
あんまりいじられると、いくら穏やかな人間だってキレる事もあるんだぜ?」
男の間延びした声に、モヒカンの警戒心もやや溶けた。
(単なる馬鹿だぜ、こいつは。今自分が置かれている状況も理解していやがらねー)

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