《MUMEI》 7月21日トントン… ノックの音に俺は小説から顔を上げる。 時刻は午後二時くらい。 「…翼か、どうした?」 扉を開けると笑顔を浮かべた翼が立っていた。 「ねぇ、暇なんだけど」 「そうか、良かったな」 よし、読書に戻るか。 「…たまには遊んでくれてもいいんじゃない?」 「お前、一人でも楽しそうに遊んでるじゃん」 「ずっと一人だと楽しくないの」 贅沢なヤツだ。 まあ、暇潰しだと思えばそんなものか。 「…何するんだ?」 「うーん… お兄ちゃんゲーム下手そうだしなぁ…」 悪かったな。 「…じゃあ、たまには兄妹でぶっちゃけた話でもするか」 「えー…」 「他に案があるのか?」 「…無いけどさ」 渋々と言った感じで応じる翼。 …これ、お前の暇潰しだよな? 「入っていい?」 「どうぞ」 俺の部屋に入った翼はなんの断りも無くベッドに座る。 俺は机の横の椅子に座った。 「んで、何を話すのさ?」 「そうだな…お前、彼氏出来たか?」 「いないよ …て言うかお兄ちゃんは彼女できたの?」 「…まだだよ」 「やっぱり、まだお姉ちゃんとは付き合って無いんだね…」 わかってるならいじらないでほしい…。 「じゃあ、次はあたしから… お兄ちゃんは好きな人とかいるの?」 「…いないな 強いて言うなら鴒かな」 「ふーん…」 「翼はどうなんだ?」 「あたしはいるよ ずっと昔からね」 まるで自慢するかのように言う翼。 「でもね… その人にも好きな人がいて、 しかもあたしはその人に告白出来ないの」 ふむふむ、なるほど。 「で、翼はどうしたいんだ?」 「私はその人と結ばれたい だけど…」 「同性だから踏ん切りがつかない、と?」 「…何で同性だってわかったの?」 「いや、昔から変わって無いなら鴒くらいしか居ないからさ」 判りやすいと思うけど…。 「…そうだよ あたしが好きなのは鴒お姉ちゃん 多分お姉ちゃんしか愛せないと思う」 …我が妹ながら心配になる台詞だが、原因はわかっている。 翼は鴒が中学に上がるまで男だと思っていたのだ。 「まあ頑張れよ 応援くらいはしてやる」 翼の肩に手を置く。 「しかし…鴒に好きな相手がいたなんてな… やっぱり俺と誤解されたら困るんじゃないのか?」 すると翼が信じられないというような目で俺を見てくる。 「…本気で言ってる?」 声にも怒気がこもっている。 「ぁ、ああ…」 「はぁ…仕方無いね 明日、帰って来たら直接訊いてみたら?」 今度は呆れたようにしている。 もう、何がなにやら…。 その夜、鴒から連絡があった。 予定通り明日帰ってくるらしい。 それからは何事も無く時間が過ぎていった。 前へ |次へ |
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