《MUMEI》

もがいていたドレットヘアが、白眼を剥いて動かなくなるのを横目に見下ろしながら、
「まあ、右手が無くなったのは気の毒だが、事故に遭ったと思って諦めてくれ」
少しも気の毒では無さそうに淡々と言うと、背中の鞘に銀色に輝く刃を収め、
無法者達に背を向ける。

「野郎ー!」
砂上に転がる岩を椅子代わりに腰かける、無法者達の中では一番ダンディーに見えるカーボーイハットの男が、膝上に 抱えていた黒い棒状の物体を持ち上げると、筒先を去って行こうとする男の背に向け構えた。
「くたばりやがれーっ!」
「だーかーらー!」
黒い棒−現在では希少品になりつつあるAK47自動小銃−が火を吹くのと、男がマントをカーボーイハットに向けて投げつけるのはほぼ同時だった。
射撃音と共にマントに風穴が二つ開き、
ふわりと地上へ落ちていく。
マントの向こうに男はおらず、声だけが響く。
「俺に構うなと!」
「上かーーっ!」
モヒカンの見上げる先に、太陽光を背に自分へ向かって落ちて来る黒い影が一瞬よぎる。
直視出来ずに手をかざしたモヒカンは、次の瞬間、頭頂から股間へ向かって
熱が走り抜けるのを感じた。
「言ってるだろーが!」
大剣はモヒカンの体を真っ二つにすると、剣先を砂中に埋めこみ止まる。
再びはね上がった剣先から砂粒が飛び上がり、カーボーイハットの眼球を直撃する。
血と臓物を砂上へぼとぼとと落とし、左右へ分かれていくモヒカンの体と、自分へ向かって疾風のように迫る黒い影を、カーボーイハットはぼんやり霞む
視界の中にとらえた。
夢中で引き金を絞り続けるも、弾丸がめり込んで上がる砂煙は黒い影の後を追うように走るだけで、標的そのものを捕らえる事は出来なかった。
黒い影が自分の横を走り抜け・・・・
カーボーイハットは、その後何故か、
己れの背後の景色を逆さまに見ている
自分自身を不思議に思い、すぐに永遠の闇の中に意識を吸い込まれていった。
カーボーイハットの首は背中へ折れ曲がり、皮ひとつでつながって、切断口から噴水のように血を吹き上げている。
一番奥にいた大男が刺の生えた鉄棒を振り上げた時には、黒い疾風は大男の胸元に、どんっと体当たりするように突っ込み、剣先が心臓をえぐり背中から飛び出していた。
「な・・・・、何なんだ、お前は?」
ふわふわ落下していたマントがようやく砂上に着陸するのと、剣士の頭を叩き潰そうと振り上げた鉄棒が、力を失った
大男の手から滑り落ちるのが、ほぼ
同時だった。

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