《MUMEI》 7月22日「やっぱり電車の中は空気が淀んでるな…」 呟きながら僕は電車を降りる。 時刻は十一時過ぎ。 由が迎えに来てくれる約束があるので松葉杖をつきながら探す。 すると、 「…よぉ」 後ろから肩を叩かれる。 「ひゃっ…由?」 振り向くと予想通り由宇が立っていた。 「ぃ、いきなり脅かさないでよね…」 こんなに近くだと心臓の鼓動まで聞こえてしまいそうで、それがさらに動悸を早くする。 「いつもの仕返しだよ …お前、顔赤いぞ? 熱でもあるのか?」 由が原因とは言えない…よね。 あぁ、でも言ったらもっと意識してくれるかも…。 「ぼんやりしてるし… よし、すぐに連れて帰るからな」 ……由…カッコいいよぉ…。 …じゃなくて、 「僕は元気だよ ちょっと考え事をしてただけだから」 僕を自転車の後ろに乗せようと抱えてくれている由宇の袖を引く。 「…そうか? まあ、とりあえず帰ろうぜ」 「…ぅ、うん」 後ろに乗るということは、相手に強く掴まる必要がある。 つまり、由に自然に抱きつけるということだ。 …由の匂いがする。 「ふふ…」 つい笑いが漏れる。 なんか、ふらふらして来ちゃった…。 「なあ、鴒」 「……っ! なっ、なに?」 ヤバい、トリップしかけた…。 「鴒ってさ、好きな人とかいるの?」 ……えっ? 「……いるよ」 気付かれて無かったの? 本当に? いや、気付いてはいるはず。 ただ勘違いだと思い込んでいるだけで…。 「…由、わからないの?」 自分でも声のトーンが下がったのが分かる。 「……わからんな」 ショックだ…。 でも言葉の前に少し間が空いた。 …やっぱり、誤解してるんだ。 「…家に着いたら教えてあげる」 ああ…泣きそう…。 前へ |次へ |
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