《MUMEI》

「何もしらねーの?」
「うん」


「前嶋さー」

本間は一気にビールを飲み干した。


「高二ん時試合中でっかい怪我して、結局再生できねーで…、結局高校辞めて…、今地元に就職してんだ」




「え………」





「リハビリとかめちゃめちゃ頑張ったんだけど、どうやったって握力戻らなくて…、どうにもなんなくて学校にも顔出したくなくなって…、だいぶ部屋に引きこもってたみてーだよ、就職も最近やっとしたんだって…」



「そんな……」




俺が毎日を平凡に過ごしていた時代に前嶋は……。








平凡な俺には絶対に立てない舞台にいると思っていた前嶋は。







一人で辛い想いをしていただなんて……。








「兄貴のダチの行ってる会社に前嶋が入ってきたから偶然知ったんだけどさ…、知ってたら声かけてやれたのにって、ちょっと可哀相になっちまってさー」



本間はそう言うとちょっと寂しそうに枝豆を摘んだ。



「あいつあんなに頑張ってたからなー」



「……うん…」

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