《MUMEI》

「鬼の肉は生臭くてかなわん。やはり肉は、生きた人間の肉に限るわ」
「いや・・・・、俺は不味いぞ」
牙のびっしり並ぶ赤い口腔の奥から、熱く血生臭い息が吐きかけられる。
「ヌオオー!」
生死を賭けた綱引きに、男の腕の筋肉が瘤のように盛りあがる。
「情熱的なのは結構だが、たまには歯を磨いたほうがいい。虫歯菌を馬鹿にしてると、ひどい目に合うぞーっ?!」
そう叫ぶ間にも男の足下が、砂上を女の
方向 へとズズズと滑る。
「いつまでも減らず口を叩いてないで
、早う我が胃袋におとなしく収まれーイッ!」
「嫌ったら嫌だーーっ!!」
だがこの綱引き・・・・、どうやら女の方に分があるようだ。
アリジゴクにはまったアリのように、男はじわじわと確実に、サメを思わせる
口腔に向かって手繰り寄せられていく。
「ぐぬぬー!これが師匠が言っていた
第三千三百五十八番目の名言、『ベルサイユの薔薇には刺がある!』の意味だったのかーー?!さすがお師匠ーー!!」

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