《MUMEI》 真の意味しらぬいは不知火と書き、一般的には九州八代の沖から、ある時期の夜に見える無数の火の光を指す。 または枕詞の「筑紫」にかかる場合は白縫と表記する。 樹はアラタの暗闇に浮かぶ手首をイメージする。 横に走る線は仄に赤み帯びていて、消毒薬の香りが鼻孔を刺激し、アラタの高潔さをより確かなものにしていた。 樹は期待していた。あの人気のない要塞から助けを呼んで来たのではないかと。 彼には戯れの一つでしかなかったのだろう。 樹は自分を痛め付けているアラタに惹かれていた。 言葉、仕草、全てが微かに彼の生命を輝かせている。 自らの痛みがアラタを人間に近付けていると思っている。思い上がりだって構わなかった。 純粋な狂気と符合しているからだ。 自分と同じ瞳の奥に宿しているアラタの狂気の炎に身を投げて爛れたいと思っている、そんな異常者だと自覚していたからだ。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |