《MUMEI》
キャベツ
 「……何だ?このキャベツの山」
とある夕飯時
何気なく冷蔵庫を開けた深沢 望は
其処に大量に詰め込んであったキャベツの山を見、怪訝な顔を浮かべていた
「……俺は青虫か」
その数は三個
せまい野菜室を完璧に占領しているソレに
何事かを台所にて調理中だった滝川 奏へと問う
「……奏。聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「何だよ。改まって」
「お前、いつからキャベツが好物になった?」
「別に好物って訳じゃないけど」
ソレがどうかしたのか、と平然と言ってのける滝川
ならば何故これ程大量にキャベツがあるのか
ソレを問いたくて仕方がない深沢だ
「ソレより望、今日のメシ、何が食べたい?」
一応リクエストを聞く気があるのか
問うてくる滝川へ、一応は悩む素振りを見せるものの
「……俺に選択権はあんのか?」
どうしてもキャベツに目がいってしまう
ソレに気付いたらしい滝川
唐突に戸棚の中を漁り始めたかと思えば
「大丈夫!これがあればキャベツなんてあっと言う間だって!」
自信満々に見せてきたのは
キャベツ用に作られた、ドレッシング
否、深沢が言いたいのはそうではない
何故これ程までにキャベツを買い込んだか、その理由だった
「そんなの、安かったからに決まってるだろ」
当然といえば当然の返答
だが幾らなんでもこれは買いすぎではないか
そう思いはしながらも敢えて口には出さず
「……で?そのタレ一つでこの大量のキャベツを全部食えって?」
滝川が持っているソレに一瞥を向けていた
それは確かにCMなどで美味いと謳われていたものなのだが
だがしかしだ
やはり、物事限度というモノはやはりある
「どうするかな……これ」
「そういうときは蒸し鍋よ!深沢!」
唐突に話に割り込んできたのは、すっかり年老いてしまった中川
行き成り現れて何を言い出すのかと怪訝な表情を向けてしまう
「……ウチ、蒸し器ねぇぞ」
「別に無くても出来るわよ。こうやって鍋にキャベツを敷き詰めて……」
手際よく鍋へとキャベツを敷き詰めて行く中川
だがどう形を変えてみてもやはりキャベツはキャベツ
食欲は、余り湧いてはこない
「これで完成!さ、後はお好きな付けだれで召し上がれ」
「タレ、ね……」
ちらり横眼見たのは、滝川が持っていたあのタレ
結局はソレに落ち着くのか、と溜息をついてしまいながら
異を唱える事を深沢は止め、唯黙々とキャベツの消費に努めたのだった……

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