《MUMEI》

そのグロテスクな生命を見る男の顔には
、侮蔑や嫌悪よりもどこか哀れみの感情が宿っている。
すでに老成した顔の赤ん坊は、母の頭を抱えながら、苦渋に満ちた声でぽつりぽつりと話し始めた。
「仕方なかったのだ・・・・。俺とて、愛するマザーにこのような仕打ちはしたくは無かった。たとえ、この俺自身がカケラも愛されていなかったとしてもな・・・・。
そう・・・・、俺は誰からも誕生を望まれていなかった・・・・」
赤ん坊の目がふと遠くを見つめる。
「あの日、マザーはこの俺を殺すつもりで
病院へと出かけたのだ。胎内にいながらにして、
俺は自らの生命の危機を感じとっていた。なぜだ?!なぜ愛するマザーはこの俺を殺そうとする?!
死にたくない!!心の底からそう願い、世界の不条理を呪いながらも、俺は成す術-すべ-もなく死刑執行の時を待っていた。
その時、遠くの彼方から、かすかに呼びかける何者かの声を聞いたような気がした。
その何者かがマザーの胎内にいながらも、確実に近づいて来ている事が俺にはわかった。そして初めは小さく聞きとれなかった声が、次第に 耳を聾-ろう-せんばかりに高くこだまする。
マザーや、周りを取り囲む医者どもに、なぜあれほど大きな声が聞こえていないのか不思議なくらいに・・・・。

『生きたいか?!』と、

そいつは問いかけていた。
俺は迷わず答えた。

生きたい!と・・・・。

そしてその何者かは答えてくれた。

『生きろ!!』と・・・・。

次の瞬間、俺は巨大な何者かに包まれるのを感じ、その力の一部が俺の中に流れこんで来た。
俺はマザーの意識を、作りだした心 の檻の中へ閉じこめ、この敵意に満ちた世界に向けて、精一杯呪いの産声を上げた。
気がつくと俺は 分娩台の上に起き上がり、周囲に散乱する、俺を殺そうとしていた 医者どもの、食い散らかされて
バラバラになった死体を眺めていた。
ハッピーバースデートゥユー・・・・!
それ以来今日まで、鬼と人の血肉を食らいながら生きて来たと言う訳だ」

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