《MUMEI》

「五十年前・・・・。まだ俺が生まれる前の話だが、この星に、デケー隕石がぶつかりそうになった事があるという。
当時人間は、そいつに『核』とやらをぶつけて、軌道を外らそうとしたらしい。何らかの手違いがあって、それはしくじり、大量の破片と放射能、それに『ウィルス』とやらが、この地上に降り注ぎ・・・・、
それ以来、人間は三つの種類・・・・
、 『人』と『鬼』と『覚醒者』に別れたという事だ。
当時の科学者達はその『ウィルス』とやらが、人間に歪んだ進化を引き起こしたとわめいていたらしいがな・・・・」
「ふん!宇宙の真理は科学者どもの論理を遥かに超えておるわ!」
憎々しく吐き捨てる赤ん坊に、男は肩をすくめてみせた。
「まー、今となっちゃ、だから何なんだ?て話だがな。個人々々で兵器のような能力を持ち、中には一人で軍隊を相手にする事が出来る者さえいる、様々な姿を持つ『覚醒者』達の出現に、当時の
社会はパニックに陥った。
大量に覚醒者が発生したある小国に、
アメリカと呼ばれる大国が『核』ミサイルと呼ばれる兵器をぶちこんだ。
中国と呼ばれる国では、それ以前に自国の領土内で秘密裏に使用していたらしいが・・・・。
まぁ、そんなこんなで世界中のあちこちで、混乱や戦争が起こり、気がついたらこんな愉快な世界になっていた、という訳だ。
で・・・・、結局腹の中のあんたに話しかけた野郎てのは、一体何者なんだ?」
「俺にはわからん。とてつもなく巨大な存在だ、という以外には・・・・。
そしてあの存在は、この俺に世界で生きるための強い牙を与えてくれた。
俺にとっては『神』そのものだ」
「悪魔かも知れないがな」
「いずれにしろ、全て終わった。牙もなく無力な俺に、もはやこの世界で生きていく術は無い。斬れ!」
目を閉じ、あぐらをかいて座り込む人相の悪い赤ん坊。
次の瞬間、銀色の輝きが素早く背中の鞘
へと収まり、男は赤ん坊に背を向け歩き始めている。
「気が向かん。女と餓鬼を斬るのは 」
「貴様ーっ!!マザーを斬りながらよくもぬけぬけと!!
この俺に哀れみをかけたつもりかーー?!」
「無駄な殺生はしねー。身に降りかかる火の粉は振り払うがな」
もはや関心が無いかのように歩き去る男の背中に、地団駄を踏んで悔しがりながら、人相の悪い赤ん坊は罵声を浴びせた。
「正義の味方ぶるな!こんな砂漠に赤ん坊を置き去りにするとは、貴様は鬼以上に冷酷無情な奴よ!」
赤ん坊はベッ!と砂上に唾を吐くと、
男の背中に向けてさらに中指を立てて見せる。
「俺の名前はベイビーブラッド!
覚えておくがいい!いつかお前を殺してやる!」
「ああ、覚えておくぜ」
その言葉の後、男が肩ごしに投げた二つの物・・・・。
ひとつは砂上に突き刺さるサバイバルナイフ。
もうひとつは先程男が補充した水筒だった。
茫然と見守る赤ん坊−ベイビーブラッド−に、風に乗って、もうかなり遠い影と化している男 から、か すかに声が流れて来た。
「俺の名前は虎ノ介−とらのすけ−だ」
再びフードを深くかぶり直した男−虎ノ介−の顔は、鼻から上が影となり、表情は窺い知れなくなる。
その背中に向けて、
「マザーーー!!」
嗚咽−おえつ−するベイビーブラッドの叫びが届いてきた・・・・。

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