《MUMEI》

神林先輩がサングラスを少しだけずらし、昼八と俺を交互に品定めしたが、昼八は最初からノーマークだったのかハリウッド張りの笑顔を作っていた。

先輩は、確かに彫刻のような黄金比の横顔だ、切れ長で蠱惑的な黒瞳に吸い込まれそうになる。(いつだかの立花から引用)

ぎょろぎょろと目玉が灯台のように俺を頭からつま先まで見通された。
真顔になった先輩と目が合って、先輩の逆鱗に触れたかもしれない。
後ろから立花に恋人繋ぎをして、徹底した守備だ。

「あー……先輩と遊んでたの邪魔したな?」

メールを頻繁にやり取りする神林先輩の束縛癖を垣間見た、これならもっと人混みに紛れやすい凡庸な格好を選べばよかった。

「偶然だね、二人で歩いてるの初めて見た。俺と昼八とはよくマンガ喫茶に遊びに行くんです。」

駄目だ、立花はもう先輩しか視界に入らない。

「へえ、今度行きたいなあ。個室あるの?」


「ありますよ、部屋毎にパソコンが置いてあります。」


「そうか、周り気にしなくていいねー」

神林先輩が立花を喰うのも時間の問題かもしれない。瞳の奥の眼光が獲物を狙う肉食獣だ。


「二人付き合ってるみたいだ……な……」

後半で昼八は口ごもり、自分で言って読み取ってしまって変な汗を大量にかいている。
立花は照れて先輩の影に隠れた。


「うん?」

先輩が惚けて首を傾げたが、俺にはそれが肯定としか感じなかった。


「そっか……、恋人って……立花が彼女の方だったか……?」

ぶちぶちと呟き、昼八が自身に言い聞かせている。


「昼八君?口を慎みなよ。」

笑顔のまま、声の調子も変わっていないのに背筋が凍り付いた。


「いや、決して馬鹿にしたい訳じゃなく、俺には先輩ほど未知の物体はない訳で……!立花が大袈裟に持て囃してたのかと思いきや本当の凄いカッコイイ人だったし。そんな引く手数多な人がなんで立花?確かに可愛いかもしれませんけどリスクが高過ぎませんか。興味本位で遊ぶだけ遊んで飽きたらポイとかするんじゃないですか。」

「……別のとこで話しません?」

熱心になるあまり、昼八は周りが見えてない。
通り過ぎる人は他人の会話なんか気にしないだろうし、スイッチ入っているみたいだから三人でどっか喫茶店でも行って語らってて下さい。
家に溜め込んだアニメが俺を待っている。

「大丈夫、俺の愛情は本物だから。」

「俺も先輩に遊ばれて捨てられても構いません。」

二人の利害が一致している。幻でハートが飛んで見えた。

「捨てる予定は無いよ……俺達は忙しいからそろそろおいとまするから。」

先輩に睨まれて、強引に帰ってった。
俺、何もしてないし……

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