《MUMEI》

 「なんなんだよ。この人の量は」
リトル・ファーに手を引かれるまま到着したその場所はひどく賑やかだった
ソレまでの静けさがまるで嘘の様にヒトに溢れている
「……この子たちは、ヒトじゃない」
辺りを見回すばかりの田上へ
相も変わらず感情の籠らないリトル・ファー声
ヒトでは無ければ何だというのか
リトル・ファーへと問う様な視線を向けてやれば
「……全員、イーティン・バニーだから」
「こいつら、全部か!?」
辺りを見回し、つい声を上げてしまえば
リトル・ファーは僅かに慌てた様子で人差し指を唇へと押し当て
静かにする様示してきた
同じ様に慌てて声を殺すと、リトル・ファーはそのまま建物の影へと身を潜ませる
「……始まる様ね」
様子をうかがうリトル・ファー
一体、何が始まるというのか
田上には分かる筈もなく、怪訝な表情をつい浮かべて見せる
「そろそろ、裏表の境が、あやふやになる。お祭りが本格的に始まる」
「……?」
「解らない?此処は、裏側の街。表とは、同じ場所に会って、別の場所にあるの」
ソレは以前、ラヴィも言っていた言葉
何とか事を理解しようと田上は考え込み、そして
「つまり、此処は俺が住んでる街とは別モノってことか?」
自分なりに、結論付ける
リトル・ファーは小さく頷きながら
「今は、そう。けど、もう少ししたら、その境も消える」
「……消えたら、どうなるんだ?」
問う事ばかりの田上へ
小さな溜息をつき、リトルファーは前を見据えていた
「……表の世界はヒトの住む世界。その世界とイーティン・バニーしかいないこの世界が混ざってしまったら」
その先は田上にも容易に想像できた
そう、イーティン・バニーはそのなの通りヒトを食うのだ
田上の脳裏に、鮮明な朱が蘇ってくる
「……忘れては、居ないでしょう?あの、朱の彩りを」
改めて言わせるな、と軽く睨まれ
田上の顔からは一気に血の気が引いて行く
まだ、他の人間は助けられる。助けなければ、と
「……あの様を見せられて、良く前が向けるわね」
ひとはひどく弱いものだと思っていたと
リトル・ファーはさも意外そうな顔だ
「……全てを元に戻す方法が、ない訳じゃないわ」
突然何を言い出すのか
リトル・ファーは徐に口を開いた
この狂った世界を元にもどう方法がある
ソレは事実なのかと、窺う表情をリトル・ファーへと向けていた
「……時計の針を、戻せばいいだけ。簡単」
「時計?」
そんなもの、何所にあるのか
問う様にまたリトル・ファーの方を見やれば
「時計は、ラヴィが持ってる。だから、それを奪えばいいだけ」
いとも容易いことだと言ってのける
だがそれが全く簡単ではないだろう事は田上には容易に想像は出来た
それでも
「……やるしか、ないか」
やらなければ全てを失ったまま
更には自身の身すら危うくなるのだ
例え同じ結末を迎える事になったとしても
せめて足掻く事位はしてやろうと、田上は前を見据える
「……貴方を、手伝ってあげる」
「は?」
行き成り何を言い出すのか、とつい聞き返せば
だがリトル・ファーは何を語る事もせず
「……だって、祭りは楽しい方がいいでしょう?」
見た目の子供らしさにはそぐわない色香漂う微笑
楽しむため、唯それだけの為に反旗を翻そうというのか
馬鹿けている、と田上は怪訝な顔を隠しきれない
「お祭りの時位、馬鹿になってもいいと思う」
そうは思わないか、とのソレに
田上は何を返す事も出来ずに居たのだった……

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