《MUMEI》

「ヤベエ・・・・。トライオキシン値がいつの間にかこんなに高くなってやがる!こんな場所で奴らに遭遇したかねーぜ。こりゃいよいよ引き揚げ時だわ」
矢印が示す方向に、足早に歩き始める。
「それにしても古戦場跡はもっと西の筈だが・・・・。風に乗ってガスが流されて来やがったのか?!」
その時また風がビユーーと吹き抜け、その風に乗るかのように、闇の中から微かに、(うあーー)と何かのうめき声のような音が 聞こえて来た。
スキンヘッドはゾッとして立ち止まると、
(気のせいさ・・・・。空耳に決まってる)
強−し−いて自分自身に言い聞かせる。
だが期待に反して、今度ははっきりと『声』が聞こえた。
「・・・・い・・・・よ・・・・、いた・・・・よ」
続けて砂上を、何か重い物が引きづられるような音。
ずず・・・・ずず・・・・ と、その音は確実に、スキンヘッドの方向を目指して近付いて来る。
スキンヘッドは闇の中で、後ずさりしながら、近付いて来るその何者かに向かって怯えた声で叫んだ。
「こっちに来るんじゃねー!!お前は
もう、とっくに死んでるんだよーっ!」
謎のような言葉に応えるように、今度は闇の向こうのうめき声が、はっきりと形を成した。
「痛いよーー、俺を砦まで・・・・連れていってくれーー・・・・」
「だから無理だと言ってんだろーが?!」
スキンヘッドは 泣きそうな顔で周りを
見回した。
その目が砂上にAK47自動小銃を発見すると 、素早く走り寄り、左脇に抱え込む。
砂の上に鉤爪のように指が折れ曲がった手が、ぬっと表れたのが同時だった。
その指が、がっと、砂を掴む。
ずず・・・・と引きづる音が再びして、
折れ曲がる腕につながる声の主が、
闇の中から姿を表すと、スキンヘッドは恐怖で絶叫していた。
理科室の人体模型のように、身体の断面を見せたモヒカンが、内臓を引きづりながら、一本の腕の力だけで自分に向かって這い進んで来るのだ。
その白い目がどうしたら、この闇の中でスキンヘッドを認識出来るのか?!
「お前はおとなしく死んでろーっ!!」
スキンヘッドの左脇でAK47が跳ね踊り、モヒカンの頭部が脳みそを撒き散らしながら四散する。

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