《MUMEI》
逃げ道
「マジかよ」
ユウゴは思わず呟いた。
 ガソリンは一滴ずつ、確実に漏れ落ち、ゆっくりではあるが、市役所の方へ流れていっている。
あと何分か経つと間違いなく引火、爆発するだろう。
「どうすんの?」
ユキナの声が耳元で聞こえる。

 すぐ近くではまだ、警備隊や参加者たちの走る足音がしている。
今、出ていくのは危険だ。
しかし、このままここにいるのはもっと危険。

「……しょうがない。俺が合図したら出るぞ」
「わかった」
ユウゴはバタバタと行き交う複数の足を眺めた。
 タイミングを見計らって出なければならない。
しかし、なかなかそれが得られない。

「ユウゴ。ガソリンが…」
「わかってる」
焦る気持ちを抑えながら、ユウゴはチャンスを待つ。

「いたぞ!あのガキだ!」
唐突に、誰かの声が響いた。
近くに聞こえていた足音は次々と遠ざかっていく。
「よし、今だ」
二人は車の下からはい出ると、急いでその場から離れた。

その直後、火に到達したガソリンが大爆発した。

 爆発によって市役所は崩れさり、巻き起こった熱風はユウゴとユキナを吹き飛ばした。

「いった」
「……ってえ」
同時に呟きながら、二人は起き上がる。

体中がヒリヒリする。
どこか火傷したのかもしれない。
「おい、走れるか?」
「なんとか……」
黒く汚れた顔を上げ、ユキナは頷いた。

 後ろを振り向くと、さらに勢いを増した炎の中に人間の手足がちらほら見える。
遠くからは警備隊の声が聞こえてきた。
「戻ってくるぞ。早く行こう」
そう言いつつ、ユウゴは自分たちに逃げ道が残されていないことに気付いた。

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