《MUMEI》

コンテナの中からくぐもった返事の声が聞こえると、用心棒は御者台の黒人に
気安い感じで声をかけた。
「おい、急いでくれよ。陽が沈む前に
この古戦場跡を抜け出したい」
「うるへーい!」
とたんに、もう初老にさしかかる御者が、歯が抜けているため滑舌の悪い声で怒鳴り返す。
「ワシもお前も同じ御主人様に雇われる身、言うなれば平等な立場じゃ。
偉そうに指図される言われは無いわ」
御者はそう言いながらも、馬牛の背中に向けて急がしくムチを降り下ろしている。
「ヘイヘイ。どうも失礼しましたねぇ」
用心棒も怒った様子も見せずに、受け流した。
すでにこうしたやり取りには慣れっこなのだろう。
へらず口をたたきながらも、長年商人に召し使いとして仕え、風雪の刻まれた
御者の顔には、暑さのためばかりとは言えない汗が滲んでいる。
心なしかムチを当てられる馬牛も、不安
を感じるのか必死に走っているように
見えた。
馬牛とは馬と牛の遺伝子をバイオテクノロジーで掛け合わせた、外見は頭に角をつけた馬で、伝説のユニコーンを彷彿とさせる生き物である。

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