《MUMEI》
channelメガネくん5
歩幅が合わずに、小走りになる。
先輩の足は纖かで、足の故障で間接がぎこちなく曲がるところは豹が体重をかけてバネのように助走をつける動きに似ている。

「間に合いそうだね」

「急いでますか?まだ街に出てから二時間くらいしか経ってないですよ」

「急いでるよ、早く家に行こう」

急いでると言いながら、俺のあげたタイのプレゼントを付けてくれている。
強引な先輩に全て任せても構わないと思えるのは、どこかで気持ちが繋がっていると信じられるからだ。

「あっ段差、どうぞ」

階段を二段跳びで、先輩を先導する。

「うん、有難うね」

……やった。褒められた。
サングラス越しにも笑っているのがわかる。

駅から降りて、すぐ先輩のマンションだ。
高層マンションの三階で見晴らしが良い。


「よし、ただいま」

玄関を閉めると後ろから先輩に抱きしめられる。
俺はこの不意打ちにまだ耐性がついていない。
耳の裏に鼻が押し当てられて擽ったいのと、緊張が鼓動を早めた。

「せっ……んぱい、お邪魔します!」

両手を握り締めて、力いっぱい玄関を踏み込んだ。

「そうだね、まだ気が早かった。今日はお願いを聞いてもらうんだ」

思い出したように先輩が俺の手を引いて部屋の奥に連れて行く。
寝室にそのまま放られて、先輩は寝室の中のクローゼットを漁っていた。
モカブラウンで統一されたベッドに室内と寝室が違う匂いがして、なんとも大人の香りだ。

「はい。これに着替えて、お願いね。どう着るかは分かる?手伝おうか?」

渡されたのは服だ、デニムのオールインワンのスカートに凝った花をあしらった刺繍が襟に施されたカーディガン……。

「俺が着るんですか?」

広げたカーディガンからシンプルな白の長袖と共に女性ものの下着がこぼれ落ちて立ちくらみがした。

「脱がしてほしい?」

当たり前のように先輩に上着を剥がされる。

「わっ、自分でします……せ、先輩はここに居るんですか?」

「そう。俺の家だし。」

間違いではないのだが、先輩に見られながら女物に着替えってどんな状況なんだ……、なんでも先輩のお願いは聞く約束だし断れない。

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