《MUMEI》

ロングスカートだと歩き難い、居間で待とうとカーペットの上で足を曲げるのに苦戦した。

本当にこんな姿で外出するのか……冗談だよね?先輩、早く帰ってきて。


ガチャガチャと鍵の解かれる音がして玄関の扉が開く。先輩だ、よかった。本当に早かった。


「誰?また新しい女?」

ロングのアッシュブラウンの髪を靡かせて、大きなサングラスに黒のトレンチコートを来た女性だ。ニーハイブーツを玄関に投げ出して俺をまじまじと見られた。
サングラスのままソファーに座り、俺にお茶を出すように指示される。冷蔵庫の中にハト麦茶を発見して、急いでグラスに注いだのを渡した。


「なんかいつも連れてるのより地味ね……。」

面と向かって言われると傷付く。喋ったらばれるしどうすればいいんだ。

「私のこと、知らない?」

まじまじと見られるので怯んでしまう。
鋭い目力を備えた美人はサングラス越しにも伝わる。
確かに先輩がよく連れて来るタイプ……の頂点に君臨する女王様だ。


「私のが赤い口紅似合うでしょう?」

唇を突き出すお茶目な仕種も、息を呑む色香を纏っていた。

「貴女、旭より年下?」


旭って名前呼びしている、ことに一抹の不安を抱くが首を縦に振って打ち消した。

「まさか、中学生じゃないわよね?」

恐る恐る質問されたが否定すると安心した様子で小さく息をつく。いつの間にか、俺が彼女の質問に首を振って有無を答える方式になっていた。

「私はいくつに見える?」

余裕な雰囲気から先輩よりは年上に見える、とりあえず26くらいと指でピースサインとまるを描いて六を人差し指と手の平で作る。

「まあまあね。私、旭のこと小さな頃から知ってる。あっ、姉なんかじゃないからね?」

つまり幼なじみか、でないと合鍵で入れるつじつまが合わない。
いや、まだ可能性はある。

「特に最近は酷かったわよね、毎日違うオトモダチだった。嵌まれば嵌まるほど冷めてく旭だから、一番のお姫様にはなれないのに電話で私が受けると超必死なのね?」

敵意だ、俺は彼女に嫌われているのかもしれない。頭を振って否定した。
結婚を前提に付き合っていて、告白されたんだ、堂々としていよう。

「貴女は何番目のお姫様?」

大丈夫、先輩が帰ってきたらきっと助けてくれる。
お姫様はいない、先輩にはもう俺しかいないと自己暗示を繰り返す。

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