《MUMEI》 錠がガチャガチャと音をたてた。先輩だ、急いで先輩に助けを求めに走る。 「ただい……おっと、」 『女性が来てっ……』 「お出迎え?ン?」 ひいい、小声で訴えても先輩には伝わってない。 キスは嬉しいんだけど、今は無理だ、引き離したくて突っぱねるも唇を押し付けられると簡単に懐柔されてしまう。 「せんぱ……」 間近で嗅ぐと、いつもと先輩の香水が違う、この間はバニラの甘い香りがしていたのだけど今は気品のある優しい香りになっている。 キスをしていると、香りまで染み込む錯覚を起こす夢心地だ。 「口紅付いてみっともない……見せ付けてくれるわね。旭、この子誘拐した?」 「晴絵、予告も無しに来るなって言ってるよね」 先輩も名前で呼んじゃうんだ、親しげで俺の入る余地は無しで胸が苦しい。 これが、嫉妬か……。そして誘拐ってそんな童顔に見えてるのか。 「そっちこそ、家に人を呼ぶなって言ったのに破ってた」 「いいんだよ、恋人だし。お互い結婚するって決めている真面目な交際なんだから、晴絵またホーレイセン出てきてんぞ修復しろ!」 肩を抱かれ、頬を擦り寄せられた。 恋人、結婚……先輩とケッコン……したい。 「このロリコンが! まだ幼稚園の優奈ちゃんのこと忘れられないんじゃないの?」 激昂されているが、「幼稚園の優奈ちゃん」という新しい登場人物の名前出てきた。 「優奈ちゃんよりユキのが可愛いんだけど、クソババア」 「旭は、ちゃんとそのロリと避妊してるの?これ以上目立つようなことしたら承知しないんだからね!」 先輩がユキって呼んでくれた嬉しい、二人は本当に仲良しなんだなあ。俺も兄ちゃんと喧嘩したもんなあ。 「わかってるって、これから初エッチなんだから邪魔だよ!」 「……っ!」 これから初めてするなんて聞いてない、まだ心の準備が出来てないですよ?! 「ねえ、本当に犯罪じゃないの?親御さんは知ってるの?さらって来たんじゃないの?いつもの子達よりぼんやりしてそうだし私、心配なんだけど。」 訝しげに見られると男だとばれそうで先輩に隠れる。 「お泊りする仲だもんね、この間もすき焼き御馳走になった。ね?」 脇に先輩の手が入りこそばゆい、そのまま胸に押し付けられる。わざとブラジャーのワイヤーあたりを弾いてきた。 男だとは絶対言えない流れで、俺は頷くだけのお人形だ。 「連絡減ったと思ったら、そういうこと……、真剣に付き合ってるならそのうち家にも呼びなさいよ。ご飯くらい奢るから。」 綺麗な赤とゴールドのネイルが頭を乱雑に掻くと、アッシュブラウンがずり落ちる。 ウィッグだったんだ。 前へ |次へ |
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