《MUMEI》

あと数年の闘いで、トライオキシンと言うワクチンが、『覚醒者』と言う病原菌をこの地上から一掃する。
そう断言する科学者の分析に狂喜して、軍はこの細菌兵器を大量に戦場へと投入した。
ある夜前線から、「死んだ戦友達が襲撃して来た!」と叫ぶ恐怖に満ちた報告が指令部に届き、隊が連絡を絶った。
それが始まりだった。
死人達がなぜ夜の間だけしか活動出来ないのかは、いまだに謎であったが、
その事件を皮切りにして、戦場の大地に染み込んだトライオキシンは、次々と昨日まで一緒に戦っていた戦友達を、新たな敵として、前線の兵士達に向け送り出して来るようになった。
捕獲した死人を分析した結果、トライオキシンと言うワクチンの恐るべき副作用が判明した。
『覚醒者ウイルス』を殺すこの細菌は、
人体内で蓄積した場合、 細胞の死滅を異常 に遅らせ、崩壊を拒む脳が生前によくしていた行動パターンを、死者に
とらせると言う事を。
トライオキシンは『パンドラの箱』だった。
あと百年は消えないと科学者に分析されたこのウイルスは、風により世界中に運ばれ、今も火葬をまぬがれた死者を、
毎夜現世へと呼び戻す・・・・。

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