《MUMEI》

コンテナ内は二重に仕切られている。
後方は商品の倉庫、前方が居住スペースになっていた。
今、天井からの用心棒の警告で、夫に
ポケットから出したマスクを渡されながら、マレーナは
「あなた・・・・大丈夫かしら?」
不安そうに夫に身をすりよせた。
「なーに、陽が沈む前に抜け出せれば
大丈夫だよ。危険な場所は限られている。さあ、ララも念のためマスクを着けておきなさい」
まだ少女の 面影を宿すララは、夫婦から少し離れた場所で膝を抱えて座り、
父に身体を寄せる義母を白い眼でらみつつけていたが、手だけ伸ばして、ひったくるように父の手からマスクを奪い取った。
ララは大きく胸元の開いたドレスを着た
義母の豊かな胸が、父の体に押しつけられるのを相変わらす睨み付けながら、
「何か悪い事が起きるわ。感じるの、
真っ黒な雲のようなものが、この馬車を取り囲もうとしているのを・・・・」
義母が怯えるのを計算して、わざとおどろおどろしく不吉そうに警告する。
案の定義母は目を大きく見開き、
「まあ、怖いわ」と心底震えあがったので、ララは心の中で舌を出す。
だが続けて
「またいつものララちゃんの予知能力みたいなものが働いたのかしら?」
義母の言ったセリフにカチンときて、
「あら、私を魔女扱いするの?『マレーナ』さん?」
『マレーナ』と言う名前をわざとよそよそしく強調して言い返した。
「ごめんなさい、ララちゃん」
とたんにしおらしく謝る義母の姿に、
(これだもん。やりずらいったらありゃしない )

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