《MUMEI》

「いい加減にしなさい、ララ!あんまりママをいじめるものじゃない!」
いつもは穏やかな父親ペドロが、たまりかねたように、ひげをたくわえた顔を
ムッとさせて娘をたしなめた。
(これじゃ、私が悪者じゃないの!)
どうにも分が悪かった。
これは罠よ。巧妙に誘導されている。
この女狐めが!
ララは再び、父親に押しつけられている豊かな胸を睨み付けた。
パパはこの女狐の色香にたぶらかされたのだ。
本当のママが生きていれば!
ママが死んでパパはすっかり人が変わってしまったのだ。
カトリック教会の神父もやめて、慣れない商売を始めたと思えば間もなく、
心の隙間に忍びこむように、このやたらめったら女のフェロモンをぷんぷん撒き散らす、赤の他人がいつの間にか家族の中に割り込んで来た。
女狐に災いあれ!!
おほほほ。そうよ!私は魔女よ!私を
怒らせるとタダでは済まないのよ!
父が何か懸命にしゃべっているが、ララの耳には届いてはいなかった。
「ララ!聞いているのか?!」

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