《MUMEI》

「魔法少女ララちゃんと呼びなさい」
「え?何の話をしているのだ?」
きょとんとしている父ペドロに、
「あ・・・・いえ、私・・・・少し、言い過ぎたみたい」
あわてて言い訳すると、
「ごめんなさい『ママ』」
『ママ』の部分をわざとよそよそしく
強調して言った。
義理の娘の皮肉に気づいているのかいないのか?
義母のマレーナは相変わらすおっとりした顔に、何の害意も無い微笑を浮かべて
「私こそ変な言い方して、ごめんなさいね」と返す。
ペドロは、またいつもの娘のワガママか、と言う感じで肩をすくめた。
ララは心の中では舌を出しながら、
(今は形勢が悪いから負けといてあげる。明日の勝利のために、今日の屈辱に耐えろ、と偉大な賢者も言っていたわ)と考えていた。
だがここで少し真顔になり、再びララは言いつのる。
「でも少し嫌な感じの雲が、未来のイメーシの中に浮かんでいるのが『見えた』のは本当よ!」
事実だった。
ララに不思議な霊感があり、過去にも
予知めいた言葉が当たった事があるのは、父のペドロも知っていたので、
さすがに夫婦ともに黙りこむ。
「あなた・・・・」
ララは義母のドレスから露出した胸の谷間にうっすらと浮かぶ汗を、女から見ても挑発的だ、と睨み付けた。
実際色白で女らしいスタイル、母性的な美貌のマレーナは、戦争未亡人と言う事もあり、再婚前に酒場で勤めている頃には男どもの好色な噂の的になっていた。
それは同じシーカーシティーに住んでいるララの耳にも入ってきている。
全く男って生き物は・・・・。
その時はそう思っていたが、馬車に引かれて母が死に、何事にも関心を無くしたかのようにしばらく引きこもっていた父が、「神とは時に残酷な事をする」と言って、数十年真面目に勤めて来たカトリック教会神父の座を、あっさり投げ出し、以前では考えられぬ酒場通いを始めてしばらくたったある日の事、
「ララ、これから新しいママになる人だよ!」
と初めてマレーナを家に連れて来た時には、心底驚いた。

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