《MUMEI》

遠慮がちにだが、公道でも手を繋いでくれる。縋るものが俺だけのせいか、背中にぴったりくっついてくれていた。女の子の格好が効いたか?

「あったかい……」

「先輩、重たいです……村井さんいい人でしたね」

人通りを避けて住宅地の裏を縫って歩いた。メガネ君の首に腕を巻き付けると動きにくい。
とっぷりと日が沈んでこの流れだと、メガネ君は明日は学校だからと尤もな理由を付けて帰ってしまうだろう。

「沖縄で、シークヮーサージュース買って来たんだ、美味しいから飲もうね」

なんて、ジュースに焼酎でも盛ってしまおうか。いきなりだと怪しまれるから、少しずつ……、なんて。
酒が強かったら意味ないしな、他の方法を模索しているうちに部屋に着いてしまった。

「ウィッグ取っていいですか?」

「待って、俺が取るから。」

着替えて帰られでもしたら最悪だ。
鞄からメガネ君の持ち物を渡す。

「お母さんから電話来てた、ちょっと今からかけますね」

電話をかけている間に引き留める作戦を立て直す。
お母様から帰って来いって電話だったらどうしよう……静かに電話の内容を聞き耳たてた。

「うん……、ご飯は食べたから。鍵は持った……わからないからいいよ、うん。うん」

「お母様からどんな電話?」

「今日は、帰り遅くなるのかって」

期待してる俺がいる。探るようにメガネ君に詰め寄って、俺って嫌なやつだ。

「……それで?」

「今日は……遅くなるって」

袖にしがみついて、目を合わせないようにぎゅっと閉じた。

「……ああっもう、」

抱きしめていると、ふつふつと鍵ををかけて閉じ込めてしまいたい欲情が沸いて来る。
こんなに素晴らしい生き物を世の中に歩かせているなんて危険だ。

「先輩……、せ……むぅ」

唇で血液まで繋がってしまえばいいのに、体温も血管も共有したい。
奥に引っ込んでしまっている舌を、絡めて犯す。

「あ……ごめん。止まらなくって」

酸欠で肩から息をしていた。

「シャワー入って来る、休んでて」

俺ばかり勝手に話して嫌われてないだろうか、メガネ君はなんでもハイハイ頷くからつい調子良く決めてしまう。
冷水を浴びて頭を冷やすが、唇を何回も重ねているし肌だって触れているのに俺はメガネ君への自信が無くなっている。

名前も知らない相手とセックスしてた俺がらしくない。


「先輩、俺の服どこに仕舞いましたか?」

「え、待って待って着替えちゃ、困る」

制止するよう慌てて扉を開けると、メガネ君はしっかり両目を閉じていた。

「いや、着替えはまだしませんけど……その、下着が落ち着かないので」

「嫌だよ」

下着を嫌がってる顔そそるな、俺に即断られてしょげる顔もそそる。

「……俺だって嫌です」

「わかった、すぐ上がるから」

不快感を示す顔の歪みも愛おしい。

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