《MUMEI》 相手は華鶴を唯無言で見やる 「……この子たちも、同じです。皆、主の願いを叶えたい。それが、望みなのです」 折り鶴を手の平に乗せ、それを相手へと差し出して見せる ソレを払おうと振り上げられた手 だがそれは振り下ろされる事無く、唯宙で小刻みに震えていた 「折神様も、祈ってみて下さい。誰かの願いを叶えたいって。そうすれば、解って戴ける筈です」 臆することなく正面から相手を見据える華鶴 暫く無言での対峙が続き、そして相手の溜息がその沈黙を破った 「……下らん。興が覚めた」 「折神様?」 「……ヒトの為に、など解りたくもない。ヒトは、慾深過ぎるからな」 「確かに、そうなのかもしれません。だからこそ、私達が、鶴が居るのです」 少しでもその欲を満たす事が出来る様に、と 強い意志を持った華鶴の眼 ソレを軽く一瞥し、相手はヒラリその姿を折り鶴へと変え そして何を言う事もせず 吹き付けてきた風に乗り、何所かへと流れる様に飛んで行ってしまった 「……もう二度と、折神様が間違えたりする事が有りません様に」 そう願う事を今の自分の望みにしようと 両の手を組み合わせ、地面へと膝をつき眼を閉じる 最初は凛とした強い表情だったそれが 段々と崩れていき、そして嗚咽に肩を揺らし始める やはり、辛かったのだろう、と 扇は何を言ってやることもせず、背後から柔らかく華鶴の身体を抱きしめてやった 「……千羽、様……」 「俺の望みを叶えてくれて、ありがとうな。華鶴」 良くやってくれた、と労う言の葉 その言葉は華鶴には十分すぎて 溢れてくる涙を堪える事が出来ず、扇の肩を借り泣き崩れる 「……泣か、ないで。華鶴」 頭を撫でてくれている扇とは別の温もりが不意に増える ソレは、その姿を千代紙へと変えてしまった筈の折鶴 泣かないで、と言いながら、その表情もまた涙に滲んでいた 「……折鶴様!良かった……!」 この小さな存在だけでも救う事が出来た、と その身体をしっかりと抱きしめる 「千羽様」 華鶴の腕の中 母親の様な華鶴の温もりに浸りながら、扇へと泣き崩れた笑みを向ける 扇は唯それに笑んで返すだけ 今は何を言う必要もないのだから、と 二人を腕の中に包んでやりながら 扇は柔らかく、耳に優しい低音で言って聞かせてやるのだった…… 前へ |次へ |
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