《MUMEI》

洗面所に大量のコットンを用意して、バスローブを羽織り、メイクの落とし方を教える。

「ぎゅって、目閉じてて」

ウィッグも取って、アイメイクも取れたメガネ君のすっぴんのが魅力的である、幼い面立ちにばら色の唇と頬がお人形さんだ。

「うなじ湿ってる……」

ウィッグで蒸れた汗のニオイが官能的で、鼻を触れると息がかかったのか、背中をのけ反る。

「いっ……」

うっすらと産毛が皮膚を流れるように生えて光輝いていた、白い首筋に誘われて歯を立ててしまった。

「ごめん。泡のクレンジング使って全部落として、洗顔石鹸であわあわにしたら化粧水コットンに染み込ませて付けたらおしまい」

「大丈夫です、はい」

うなじを傷物にした申し訳なさより、真っ白な皮膚に歯型が赤み刺すことに安心する。


つるりとメイクが落ちたメガネ君は剥き卵のようにつやつやだ。食欲と性欲は似ている。

「着替え・は、しなくていいか」

「良くないです、顔と服がちぐはぐですよ」

珍しく反論された。

「こんなかんじの子、原宿とかに普通に居るって」

「それって親しみ易いとか妹みたいな?先輩は華やかな女の人が好きじゃないですか……」

真っ赤な目をして、性別なんて気にしてるんだ……まさか妬いてた?知り合いの彼女の読者モデルか、それとも晴絵?

「それは本気になりたくなかったから真逆の……、いいや。頑固だね、俺がこんなに告白しているのに……俺って嘘つきに見える?」
説明してしまう自分が情けない、こんなにも想っていても伝わらないなんて悔しい。


「嘘つきっていうより、夢みたいです……、先輩は本物ですか?実はドッキリとかなんじゃないかとか、俺がまだ夢の中だとか……」

「触っていいよ」

上機嫌にバスローブの襟にメガネ君の手を突っ込んだ。

「本物、ですね……」

ぎこちなく指が胸囲をまさぐった。水滴が、メガネ君に滴り落ちて焦らされる。

「床、拭かなきゃ。頭も……風邪ひいてしまいます」

タオルを探すフリをして逃げられた。お互いこんな、生殺しのまま普通のリズムに戻すなんて天然なのか隠れサドなのか。

「それより、服……脱がなきゃ駄目なんでしょ?」

「それが、下着の、か……金具が……テキトーにつけたら、外せなくて……そのっ……」

擦り足で後退りながら、一人で着替えられないことを訴えられた。
近付こうとすると挙動不審に逃げ回り、恥ずかしがっている姿が、誘われているようにしか見えない。

自分の寝室まで追い詰め、ベッド上に転がした。

「捕まえた。」

「わっ……近いです!」

額をくっつけて腹辺りに跨がる。

「いつもと変わらない」

「前……!開けてます!」

特に胸板に関しては見られてやましいものは無いのに、視界を両手で塞がれてしまう。

「そうだ、またお願いしちゃおうかな」

窓枠に置いてあったハサミを握り締めて動かした。

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